「使える英語」を身につけるためには、「ジャンル」はなくてはならないもの。大学入学共通テストでは様々なジャンルから出題されました。
ここでは、英語指導でジャンルを取り入れる意義について、4回にわたって簡単な例をひきながら考えていきます。
soか分詞構文か―同じ意味なのに、なぜ複雑な表現を使うのか
中学校から高校へ学年が進むにつれ、複雑な表現や文法が増えていきます。 たとえば、文と文をつなぐ役割をする接続詞にはand、butやsoなどがありますが、分詞構文を使うこともあります。練習問題を見てみましょう。
問題)次の2つの文を、分詞構文を使って1つの文にしなさい。 |
He read books in the dark. |
His eyesight got worse. |
この答えは、Reading books in the dark, his eyesight got worse.です。「接続詞soを使う方がわかりやすい」、「なぜ分詞構文を使うのか意味不明」と思う生徒は一定数いるでしょう。分詞構文の「作り方」を理解し、文法のテストで正解しても、複雑な文法が増えることに疑問を持つ生徒もいると思います。なぜ、異なる文法句や語いを使うのか。その答えは、「テキストのジャンル」にあります。
生活の中にあるジャンル
まず、「テキストのジャンル」の定義から考えていきましょう。テキストとは、文章のまとまりのことです。そして、テキストのジャンルとは、社会的な場面で一般的に使用されているテキストの種類を意味し、話し言葉と書き言葉の両方があります。
- テキスト: 文章のまとまり
- テキストのジャンル: 社会的な場面で一般的に使用されているテキストの種類
ジャンルの分野で著名なオーストラリアの研究者Martinは、その例として、詩、物語、展示会、講義、セミナー、レシピ、マニュアル、予約受付、サービス提供者と顧客間の場面、ニュースなどを挙げています。これらはすべて、生きている言語が、目的をもって、実際に使われている場面です。
私たちは毎日、様々なジャンルで言語を使用しています。たとえば、テレビをつけると報道番組、バラエティ、コマーシャル、ドラマなどを目にします。また、ニュースレターを読んだり、仕事でプレゼンテーションを聞いたり、家族や友人と話をしたりします。これらはすべて、言語を使用していて、それぞれが異なる決まり事を持つジャンルです。しかし日頃、ジャンルの存在を意識することはあまりありません。話し言葉のジャンルから例をひとつ見てみましょう。
ジャンルといろいろな話し言葉
ジャンル:久しぶりに会った同僚同士の、最近の出来事についての会話
設定:AnnaとDougはブリティッシュ・カウンシルの同僚です。Dougは1週間の休暇から戻ってきました。休暇前に、DougはAnnaに伊豆へ旅行に行く計画の話をしていました。Annaは、オフィスの共用エリアでDougに会います。
Anna: | Hi Doug, How’s it going? |
Doug: | Not bad. And you? |
Anna: | Good thanks. How was Izu? |
Doug: | It was a disaster, actually. It rained all the time. We were just stuck in the hotel. |
Anna: | Oh no! |
このジャンルには通常、カジュアルな挨拶(How’s it going?)、質問(How was Izu?)、回答、反応(Oh no)が含まれます。また、「How was (your trip to) Izu?」のように( )内を省略したりもします。 Dougが使った「actually」のような価値や態度を含んだ言葉は、その後に想定外または否定的な情報が続くことを示します。 最後に、このジャンルには通常、ユーモアや笑いも含まれます。
一方、夕方のニュースを伝えるアナウンサーは、このような言語機能を使いません。 出来事を伝えるニュース番組の決まり事として、かしこまった挨拶や中立的な言葉が含まれますが、個人的な意見は避けます。 通常、「質問する」や「回答する」という言語機能は使いません。 母国語の場合、これらの決まり事について直感的に理解をしています。 アナウンサーは、もし自分がニュース原稿にはない、くだけた挨拶、冗談、個人的な意見で話し始めれば、すぐに視聴者から苦情を受けることを知っています。 同様に、あなたがニュース原稿のスタイルで友人と話をしたら、友人たちから距離をおかれるかもしれません。 さまざまなジャンルとそこで使われる言語表現を知ることは、コミュニケーション力を高め、お互いをよりよく理解するのに役立ちます。
次回のブログでは、ジャンルの知識がないとどんな困ったことが起こるのかを、日本語学習者の事例や、日本人留学生が海外で出会う場面から考えます。
付記: 冒頭に出てきた、分詞構文が多用されるジャンルは百科事典です。例えば、以下のような表現が見られます。
- Following a short recovery, Jobs returned to running Apple.
- Influenced by professors who pushed him to take his studies more seriously, Obama experienced great intellectual growth during college and for a couple of years thereafter.