前回のブログでは、生活の中にあるテキストのジャンルの種類をご紹介しました。様々なジャンルで使われる言語表現を知ると、コミュニケーション力が高まることについて、同僚との会話やニュースの例から考えました。
「さあ、食べよう!」と「お召し上がりください」の違い
では次に、ジャンルが日本語学習に与える影響についてみてみましょう。 身近な人と食事をする時に使う「さあ、食べよう」という表現は、日本に住む外国人には理解しやすいです。一方、ビジネスディナーの会話のジャンルに出てくる、「どうぞ召し上がってください」というフォーマルな言い方は、すぐに理解できないかもしれません。聞き馴染みのある表現を待ち、じっと座ったままでいると、気まずい雰囲気になるかもしれません。
PTAへのメールの言葉遣い―ジャンルの決まり事
書き言葉について考えてみましょう。日本の小学校に子供を通わせる外国人が、学校のPTA活動に参加しています。この人は 日本語が堪能で、運動会でのボランティアを依頼するメールを保護者に送ります。以下のようなメッセージです。
保護者へ、 |
皆さん元気ですか? 大事なお知らせがあります。運動会が上手く行くようにボランティアがもっと欲しいです。ぜひボランティアになってください! |
このメール文は「PTAメールのジャンル」の決まり事(例えば構成だけでなく、形式や語調)などに配慮していません。そのため、これを受け取った保護者は、驚くか、苦笑いをするに違いありません。
留学生にありがちな言い回し-言語スキルとジャンルの知識
日本語で起こることは、外国語にも当てはまります。 次の事例は、英国や米国の大学教授が、留学生からよく受け取るメール文です。
Subject: Hello |
Dear Professor Wilson, |
I was sick last week. Please give me an extension for my essay. |
I am waiting for your reply, |
Kei Asada |
このようなメッセージを受け取ると、教授たちは苛立ち、要望を断りたい気持ちになります。 なぜでしょうか? メール文には挨拶と締めくくりの言葉があり、英語はすべて文法的に正しいです。「please」があるのでていねいに聞こえます。それにもかかわらず、これは目的を達成できないだけでなく、受け手に否定的な影響を与えます。その理由は、「期限延長を要望する」メールのジャンルとしては、重要な決まり事を無視しているからです。 たとえば、「give me an extension」の命令文の文頭に「please」をつけても、敬語にはならず、命令文が少し柔らかく聞こえるだけです。 「I am waiting for your reply.」という締めくくりも、厳しく、性急な印象を与えます。
このような場合は、構成の点から次のことに留意をすれば、相手に意図が通じ、目的が達成できる文になります。
- 件名にメールの目的を記載する
- 冒頭に、名前、クラス、学生番号を記載する
- 仮定の表現をより多く取り入れて、要望を伝える
- 提出が遅れる理由について説明する
- 延期してほしい期日について提案する
注)上記の1-5に関連する部分を太字としています。 |
Subject: Essay deadline extension |
Dear Professor Wilson, |
My name is Kei Asada from your Advanced Linguistics class and my student number is 1344. |
I am contacting you to see if it would be possible to get an extension to my essay on mediaeval literature. The deadline is next Monday, but unfortunately I have been ill with the flu for the last four days and haven’t been able to make any progress with researching or writing the essay. |
I would really appreciate it if you could extend the deadline to the end of next week. |
Kind regards, |
Kei Asada 1344 |
このようなメールには、言語スキルとジャンルの知識の両方が必要です。言語スキルでは、「I was wondering if it would be possible to ….」のような複雑な文法表現の力が、ジャンルについては、前述した構成、語調(トーン)や敬語の知識が必要です。 高校でさまざまなテキストジャンルの決まり事に触れる機会があれば、効果的なコミュニケーション力の習得に向けた準備ができます。
次回、第3回目では、日本での英語指導における、テキストジャンルの活用について見ていきます。