第1回目と2回目では、生活の中にあるジャンルと、外国語学習でジャンルを扱うことの意義について考えました。後半の2回では、日本の英語教育との関連について扱います。
教科書の中のジャンルは十分か?
海外では、教科書にジャンルを取り入れることは、コミュニケーション力の育成に有効と考えられていますが、日本ではどうでしょうか? 教科書分析の研究では、日本の高校の英語教科書は、テキストのジャンルが明確な言語活動は非常に少なく、全体の1割程度という報告があります。アウトプット型の言語活動をするとしても、ジャンルの知識を意識して指導する機会はあまり提示されていないことがわかりました。また、言語活動をする場合でも、「説明」に関するテキストが全体の8割を占めており、「物語」や「意見」のテキストを扱う機会があまりないと指摘しています(参考文献1)。
では、教科書にジャンルが十分にない場合、どんな影響があるのでしょうか。まず、場面や状況が限られるため、さまざまな言語の働きの英語に触れる機会が十分にありません。たとえば、説得する、考えや意図を伝える、反対する、断る、主張する、相手の行動を促す、注意を引く、共感するなどの表現です。また、ジャンルの知識を学習する機会が不足します。そのため、生徒が実際に言語を使う時に、目的や場面に応じた表現を判断することが難しいです。そうすると思いがけないことが生じます。実際に友人が遭遇した例をご紹介しましょう。
相手と理解し合えない・・・
その日は夕方から天気が変わり、土砂降りになりました。カナダ人の友人は傘を持っておらず、駅で困っていると、1人の日本人が傘に入れてくれました。道中、友人は英語でいろいろと質問を受けました。Where are you from? と聞かれたので、I’m from Canada.と答えると、Oh, you are from Canada.という応答がありました。続いてのWhere do you live?という質問に、I live in Nakano.と答えると、You live in Nakano.と返ってきました。その後も日本人は、友人の言うことにオウム返しをするばかり。目的の場所に着く頃には、友人は辟易してしまい、せっかく親切にしてくれたのに、「もうこの人と話をしたくない!」、という気持ちになってしまいました。これはどうしてなのでしょうか。
会話では、相槌を打つ、共感をするなどのリアクションがあると、自然なやり取りが続きます。しかしこの日本人の応答はオウム返しの連続でした。英語では、相手の言葉をそのまま繰り返すのは、カウンセリングの場面ぐらいで、日常生活でオウム返しが続くと、見下されたように聞こえます。残念ながら、誰かを不愉快にすることを言ったとしても、相手はそれをいちいち教えてはくれません。そのため、場面や状況にそぐわない表現を続けたせいで、コミュニケーションが発展せず、相手とよい関係が作れませんでした。実はこのような出来事は珍しいことではないようです。
よい「お手本」に触れる
日本の教科書は、文法事項については、「言語活動との関連で十分な文脈がない」「実際のコミュニケーションの場面で、その文法を使うことができる構成になっていない」という問題が指摘されていました(参考文献2)。
新しい文法項目を導入する時、教師が生徒の言う文を何度も繰り返すことがあります。例えば、以下のような感じです。
教師: | Hello class. Today, we are talking about animals. What animals do you like? Let’s ask Hiro. What animal do you like? |
生徒: | I like dogs. |
教師: | Oh, you like dogs. |
これは、生徒が何度もターゲット文に触れる点では意味があります。しかし教師は、このやり取りは練習で行う「人工的」なもので、「実際には存在しない(起こらない)」ことを、生徒に十分に理解させることが大切です。実際に起こるやり取りとは以下のような感じです。
教師: | What’s your favourite animal, Hiro? |
生徒: | I like dogs. |
教師: | Oh really? Me too! What kind? |
生徒: | I like shiba inu. |
誰が、何のために話をしているのかという状況を明確にすれば、よい「お手本」に触れることができます。本当で自然なコミュニケーションで起こる表現、例えば反応する、追加で質問をする、確認をする、という言い方を授業で紹介すれば、生徒たちはみるみるうちに上達します。
最終回の第4回では、すでに学校現場で起こっている動きや、指導にジャンルを取り入れる際の留意点についてご紹介します。
参考文献
- 今井理恵・峯島道夫・松沢伸二.(2019). 「高校英語におけるジャンルの意識―学習指導要領及び解説,検定教科書の調査から―」 KATE Journal (関東甲信越英語教育学会誌), 33, 55-68.
- 文部科学省.(2014). 『今後の英語教育の改善・充実方策について 報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~』