By 英会話スクールチーム

2021年 10月 07日 10:00

9月2日(木)、ブリティッシュ・カウンシル英会話スクールは、「BBCワールドニュース」のプレゼンターとしてワールドワイドに活躍する大井真理子氏をお迎えし、英語学習者向けのオンライン・トークイベントを開催しました。ニュースが出来るまでのプロセスから、国際ニュース報道の最前線で日本人ジャーナリストとして自身の経験をどのように生かしているのか、また学生時代の英語学習方法まで、たっぷり聞きました。

日本人キャスターならではの視点を生かした取材・報道

大井氏は、大学時にジャーナリズム修学のためオーストラリアに留学し、在籍中から番組制作を経験。2006年にBBCワールドニュースに入局後、レポーターを担当したのち、現在「アジアビジネスレポート」のプレゼンターとして、経済や時事ニュース、自然災害など幅広い分野のニュースを届けています。日本における専業主婦の仕事復帰や歴史教育問題、ウーマノミクスの検証など、独自の視点をいかした取材報道、近年では社会の多様性を反映させた番組作りを目指すプロジェクト「50:50 Project」にも取り組んでいます。

――BBCで国際ニュースを報じるうえで意識していること、国際的なメディアで日本人キャスターとして意識されていることは何ですか?

大井氏:BBCの視聴者は世界中にいるため、例えば日本のニュースを伝えるときには、日本に詳しくない方にどうやって分かりやすく伝えるか、逆に精通している日本人の方には“そんなの知っているよ”と思われないようにすること、両方を意識します。また、父親のお小遣い制度や婿養子制度など、日本人の自分にとっては当たり前のことでも海外の方からすると面白く思われることも多く、会話の中から特集が生まれることもあるので、毎日の学びになっています」

――BBCは、日本のメディアよりも早く日本に関するニュースを発信することがありますが、なぜこれが可能なのか、取材体制について教えてください。

大井氏:BBCは世界中に数千人の記者がおり、速報ニュースの際にすぐ現場に行けるよう常にスタンバイしています。ニュース発生時には、必ず2つ以上のソースからのレポートを検証して、速報という形で報道します。また、現地の駐在レポーターは現場や自宅からの中継や、移動中に携帯電話を使って中継することも。信頼を置く現場レポーターからの報道をすぐに出すため、スピード感があるのだと思います。

――フェイクニュースやコンスピラシーを主張した内容のニュースが氾濫する中で、BBCでは正しい情報を広めるためにどのような工夫をしていますか?

大井氏:BBCは基本的に公平・中立な報道に根差しているので、例えば、選挙報道では与党と野党の声を秒単位で同じ時間、放送するなど気を配ります。近年、Misinformationが問題になっており、例えばClimate Change(地球温暖化は起きていないという意見)やワクチン反対に関する情報などが増えていますが、環境問題については一定の報道ルールを設けており、ワクチンに対する不安の声を紹介するときにはワクチンの効果を同時に説明するなど、ニュースルームで議論し決めます。リアリティ・チェックという特別な部署もあり、例えばウーマノミクスの成功に関する発言についても、実際の女性の労働形態や賃金、待機児童数の変化を調べて果たしてそれが本当なのか検証しました。

「BBCワールドニュース」プレゼンター・大井真理子氏

「間違いを恐れない」英語学習

――大井さんは、学生時代はどのような英語学習をしていましたか?

大井氏:学生時代には、よく英語で書かれた本と日本語で書かれた本を読み比べて勉強しました。BBCワールドニュースも日英で書かれているものが多いので、ぜひ活用してください。また、耳を慣らすこと。私は、オーストラリアで英語を初めて本格的に学んだのでオーストラリアのアクセントは聞き取れていたのですが、スコットランドのキャスターの質問が聞き取れないこともありました。色んなアクセントを聞き取る学習として、色んな国のレポーターが話すニュースを聞くのも有効だと思います。

――ニュースで扱うトピックスによって異なる分野の専門的な英語表現が要求されますが、語学力の維持と向上のためにどのような工夫をしていますか?

大井氏:コロナ禍では、それまで殆ど話をすることのなかったパンデミックやワクチンの話をすることが増えたので新しい単語も多く、経済の報道でも新しい経済用語が常に出てきます。ニュース報道では常に、14歳の子が聞いて読んで理解できるように話すようにと言われます。大学時のジャーナリズムの授業で、自分も意味が分からない言葉を使うなと教えられたのをよく覚えていますが、いかにシンプルで分かりやすい言葉で説明するかが私の仕事なので、わざわざ難しい単語を使わなくてもいいと考えるようになりました。難しい単語を使って英語を母国語としない人が分からないのは報道の意味がないので、どうしても押さえておかなければいけない単語を除いては気にしていません。

――国際的な環境で仕事をする中で、日本の英語教育に望むことはありますか?

大井氏:日本の学校では文法をしっかり学ぶため、読み書きは得意な方が多いと思いますが、私も留学時代、耳が慣れてない、話す自信がないと感じていました。でも、まわりの人は文法の間違いなど気にせず自信を持って発言しますし、意見を言わないと意見がないと思われるため、さらに意見が伝えづらくなります。だからどんどん発言したり、耳を慣らす機会を作ったほうが良いと思います。ポットキャストなどを活用して色んな英語を聞いて耳を慣らす、そして発言の場を作るというのが学生の時から大事です。日本語でも、英語でもトピックについて皆で議論できる次世代を生み出す教育になってほしいなと思います。

プロフィール

大井真理子(BBCワールドニュース レポーター/プレゼンター)

東京都出身。高校1年時オーストラリアに留学し英語を学び、その後、慶応大学環境情報学部に入学、1学年終了時にジャーナリズム修学のためオーストラリアRMIT大学ジャーナリズム学部に入学。在学中に番組制作を経験する。2006年、英国放送協会(BBC)に入局し、国際ニュースサービス「BBCワールドニュース」の日本人初のレポーター兼プレゼンターを務める。シンガポールを拠点に、アジア発の朝のニュース番組「アジアビジネスレポート」のプレゼンターを担当している。取材拠点はアジア全域に渡り、時事ニュースのほか、経済、自然災害、無差別テロの現地報道から特集番組の制作まで、幅広く担当。BBC.comへの記事執筆やドキュメンタリー番組の制作ほか、日本特集も数多く手掛ける。