STORY:ミッツ・マングローブさん(女装家)| ブリティッシュ・カウンシル日本創立60周年
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Hiroshi Yoda

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英国での生活と初めての英語

父親の転勤でイギリスに移り住んだのが小学五年生の頃。それから中学卒業までロンドンで暮らしました。渡英して間もない頃、同学年の日本人の女の子とハンバーガーショップに立ち寄ったんですね。注文ぐらいできるだろうと思って英語でオーダーしたら、「ハンバーガー」も「フライドポテト」もまったく通じなくて。そしたら、見かねたその子が横からバーッと注文しちゃったんですよ。それにすごい敗北感を覚えて。それまでわりと成績のいい子だったから、あまり勉強で負けたことが無かったんです。だから、同じ学年の子に歯が立たないっていう体験が初めてで。それで「もっとしゃべれるようになってやる」みたいに思ったのかもしれない。せっかくイギリスに来たんだから、元をとって帰ってやろうって、どこかで思ってましたね。

音楽、そして海外で感じた日本

音楽は小さい頃から好きでしたね。イギリスでもFMをよく聴いてたし、行き帰りのスクールバスでも流れてたし。そうすると自然に、その時代のアイドルとか流行ってる音楽にも詳しくなりますよね。音楽的な趣味も広がっていって。それが自分の音楽の方向性とか好みの大きな部分を占めてると思います。それと、親の背中越しに感じていたバブル景気。海外に住んでいたおかげで、日本にいるよりも客観的に当時の日本経済の強さを感じることができた。「87年最強説」なんて、当時の友達ともよく話すんですけど。音楽やファッションも含めて、そういった時代感みたいなものを、周囲の環境を通して肌で感じていたのが、今の自分の価値観にもつながってるなって思いますね。

とにかく英国に帰りたかった

日本に戻ってからも、大学に通いながら音楽活動は続けていたし、将来は音楽を仕事にしようとも思っていました。でも、まだダメだろうという漠然とした気持ちもあって。それで、就職までの時間稼ぎのためと、イギリスに戻りたいという思いから、卒業後にウエストミンスター大学に留学したんですね。とにかくもう一度イギリスに住みたかったんです。というよりも、ロンドンに帰りたかった。きっと居心地がいいんでしょうね、私にとって。多感な時期を過ごした「地元」っていう感覚が強いんだと思う。そのときも、留学というよりは単純に「ロンドンに戻りたい」という気持ちでしたね。でも幸いなことに、ウエストミンスター大学というのが、すごく面白い学校だったんです。

自分にとっての「音楽」を見つめ直す

ウエストミンスター大学は、音楽のノウハウや技術を教える学校ではないんですよ。歌や演奏については「できる」というのが前提なんです。なので入学してからは、自分の得意なパフォーマンスや知識・技術を活かして学んでいく感じでしたね。当然ステージパフォーマンスの授業もあるし、作曲の授業でも、作曲法を教えるのではなく、自分の曲をジャズのビッグバンド用にアレンジしなさい、とか。それをグループを組んでレコーディングして、ミックスダウンして、一枚のCDに仕上げるところまで実際にやるんです。ほかにも、著作権やロイヤリティといった法律系から、ビジネスやマネジメント、マーケティングの授業までありましたね。変わった学校でしたけど、面白かったですよ。踊ったり、パフォーマンスしたりといった下地を、自分のなかでロジカルに整理する機会を与えてくれたんだと思います。

留学と英語について

留学した時、私は最初から授業に出られたんですけど、当時は入学してから語学研修を受ける留学生も少なくなかったんですね。それがすごくもったいないなと思っていて。せっかく留学したんだから、1年とか半年を語学学校で過ごすんじゃなくて、最初から本場の英語にふれて、本来やりたかったことをすべきなんじゃないかな。本気で学びたいことがあるんだったら、IELTS(アイエルツ)のハイスコアを取るくらいの実力をつけてから留学したほうがいいと思いますね。

ミッツ・マングローブにとって「UK」とは?

楽な場所なんですよね、自分にとっては。…「逃げ場所」。だから帰ってないんだと思います、この12年間。行ったらもう戻ってこないような気がして。昔からの友達もいるから、帰りたいなとも思うんですけど、まだまだ日本で勝負しなくちゃいけないこともあったし。「そっちに逃げちゃダメでしょ」みたいな感じはありますね。やっぱり異邦人ならではの、なんでも曖昧にしてしまえる楽な部分ってあると思うんですよ。それに、時代的にもいい思いをしちゃったもんだから。いろんなものを免除されて楽に生きられる。そんな意識がどこかにあるから、逆にかたくなに帰らなかったんだと思うんですよね。最近また向こうの友達とも連絡を取り合ったりしてますけど。人生や生活に一区切りつくまで、自分のなかで思い出すのも止めてたかもしれない。それくらい自分の中に深く根ざしたものなんですね。

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Profile:ミッツ・マングローブ(みっつ・まんぐろーぶ)

女装家。1975年、神奈川県生まれ。10歳の時に父親の転勤により家族で渡英。中学卒業までをロンドンで過ごす。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、英国ウエストミンスター大学に留学。コマーシャル・ミュージック学科にて、音楽制作、アレンジ、マーケティングなど音楽ビジネス全般について学ぶ。タレントとして数々のテレビ・ラジオ番組に出演。2011年、「若いってすばらしい」で歌手デビュー。音楽ユニット“星屑スキャット”のメンバーとして、2012年6月「マグネット・ジョーに気をつけろ」、2013年5月「コスメティック・サイレン」をリリース。自身でもショーやイベントを企画・プロデュースするなど精力的に活動している。

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