日本人は環境対策の経済的負担には消極的
他国・地域の文化理解が最重要、積極的対面交流で連帯を
英国の公的な国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシル(所在地:東京都新宿区 駐日代表:マシュー・ノウルズ)はこのほど、気候変動というグローバルな課題に対して、国際的な協力関係をつくる前提について理解を深めるための調査結果を発表しました。
本調査は、2021年2月から3月にかけて、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の専門チームが実施しました。以下の3つの要素から構成されています。
- 中国、インド、メキシコ、日本の各国民の気候変動に関する国際協力に対しての価値観、姿勢、優先順位を明らかにする国内調査 。オンラインで実施し、各国で18歳以上の男女約1,000名の回答を得た。
- 国際的な環境協力における価値観と信頼の役割についての文献調査。
- 中国、インド、メキシコ、日本、UAE、ブラジル、ベネズエラ、モロッコの文化関係の専門家によるフォーカスグループを対象にした定性調査。気候変動に関する協力のための条件を整える方法と、国際的な文化・教育部門の特別な役割について検討した。
■ 調査結果から分析した主な内容
効果的な国際協力のための価値観 - 異なる国や地域の文化や状況を尊重する
地球規模の気候変動の取り組みには、困難な犠牲が伴い、異なる価値観、視点、利益を持つ国やコミュニティの間で合意が必要になります。有意義な対話を促進し、効果的な国際協力を行うためには、共通の目標に向かって協力しながら、個々の違い、特に異なる地域の文化や状況を尊重することが重要であると結論づけています。
他国の人々との交流で、国際的な連帯感は高められる
国際的な連帯感は、他国の人々との交流を増やすことで高められるとされています。交流を通して、個人が世界の人々とのつながりを感じ、人類に共感を抱くことで、地球規模の問題を「私たち」問題としてとらえることに役立つことが明らかにされました。
人的交流のデジタル化が進む一方、対面での交流が連帯感や信頼を強化する
パンデミックの影響で様々な人的交流がデジタル化されている一方、オンラインだけでなく対面でのグループ間のイベントや集会での交流が、連帯感や信頼を高める可能性があり、パンデミックの状況を鑑み適切な時期がきたら対面での交流を再開すべきである、と調査チームは結論づけています。
環境支援への行動を妨げる価値基準:個人の利益と支援行動の対立
交通手段、食べるもの、買うもの、支援する活動など、私たちは市民として、環境に影響を与える個々の選択に日々直面しています。環境に悪影響を与える可能性がある個人の楽しみや経済的利益を優先すること、個人の楽しみや経済的利益より環境保護を支援すること、という二つの相反する価値基準が、個々の選択において対立し、積極的な支援行動を起こすのを妨げる可能性があるとされています。
日本では環境対策に対する経済的負担には消極的、自由制限は許容する傾向
日本では、環境対策としての税金や生活費の増加、失業、地域間の不平等に対して抵抗を示す一方、交通手段や食事の選択においての個人の自由制限については許容する傾向が明らかになっています。(参照表1)
【参照表1】
設問:もし気候変動との戦いが以下のような代償を伴うとしたら、各国政府は気候変動との戦いをどの程度優先させるべきだと思いますか。
本調査の結果をうけて、LSEの主席研究員であるマイケル・ブルーター教授は、次のように述べています。
「原則として、誰もが環境を守りたいと言い、そのために世界が早急に協力する必要があると言います。しかし、本当に難しい議論は、これを成功させるためには、誰が何を犠牲にすべきか、ということです。本調査では、このような難問を投げかけ、国の内外で重要な優先順位の判断がいかに異なるかが明らかなりました。私たちがこのような難しい問いかけをするのは、耳触りの良い言葉だけでは十分ではなく、このような緊迫感を明らかにし対処してこそ、地球を救うための国際協力について、真のロードマップを見つけることができるからです。」
ブリティッシュ・カウンシル駐日代表のマシュー・ノウルズは次のように述べています。
「私たちが共に新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックに立ち向かっている間にも、気候変動が地球の生命を脅かすという、大きな課題が立ちはだかっています。個人の意思決定が気候変動に及ぼす影響を理解してもらうために、若者同士のつながりや対話を構築することが非常に重要であると考えます。ブリティッシュ・カウンシルでは、特に世界中の若い世代の人たちが相互理解を深めるための機会をつくっています。日本においても、英語教育や文化交流プログラムを通じて、国際協力の基礎を築き、多様な文化や価値観を持つ人々が、未来に向けた新たな決断やリーダーシップを発揮できるよう支援しています。」
■ 本調査概要について
本調査は、ブリティッシュ・カウンシルの新しい研究プログラム「The Big Conversation」の一環で行われました。国際的な信頼関係を構築し、対話と協力を促進するための文化的アプローチに関する専門的知識を把握することを目的としています。
このプログラムの第一段階では、COVID-19の大流行を受けて、文化的アプローチにおける国際協力について探りました。第二段階である今回は、気候変動に対する価値観と姿勢を探りました。価値観は、人々の姿勢や選択、社会的規範や世論を形成するものであるため、特に重要です。
学術的な報告書(英語)の全文はこちらのサイトの’The Big Conversation Climate Change report’で、要約版もご覧いただけます。
■ブリティッシュ・カウンシルについて
ブリティッシュ・カウンシルは、文化交流と教育機会を促進する英国の公的な国際文化交流機関です。私たちは文化芸術、教育、英語を通じて、英国とその他の国の人々の間につながりを育み、理解と信頼を築くために活動しています。2019年度は、8,000万を超える人々が私たちの活動に直接参加し、また7億9,100万人がオンライン、放送、出版物を通して私たちが提供する情報にアクセスしました。英国の公的な機関として1934年に王立憲章によって定められた非営利の公益団体(チャリティ)として設立され、主要な財源となる交付金の15パーセントを英国政府から受け取っています。
日本では1953年に活動を開始しました。英会話スクールや英国資格試験の運営、教育機関・企業向け英語研修、英国留学情報の提供、英語教員への研修、高等教育や文化芸術分野での国際交流支援などを行っています。