【プレスリリース】
英国の公的な国際文化交流機関ブリティッシュ・カウンシル(所在地:東京都新宿区、駐日代表マシュー・ノウルズ)は、オンライン指導の理論と実践を学べる、英語教員向けのオンラインコースを開発したことを発表しました。
ブリティッシュ・カウンシルは、世界各地での英語教員研修の経験や知見、世界に広がるネットワークを活用し、小中高校で英語を指導する教員向けに、オンライン指導についてのコースを開発しました。これまでも対面式の教員研修だけでなく、様々なオンライン研修を教員向けに実施しており、豊富な経験を持っています。
新型コロナ感染症の拡大により、世界中で学校教育における新たなしくみの構築が求められています。日本においても、文部科学省は、今後、新学習指導要領を実施する上で、感染症対策を講じながら、対面指導とオンライン等を使いこなす「ハイブリッド化」という新たな指導モデルを展開するとしています。このような動きの中で新たに開発したコースは、文部科学省の新モデルにおいても良質の指導を提供できるよう、理論と実践を学べる英語教員向けのオンライン指導コースです。
海外の研究では、オンライン指導には、対面指導とは異なる指導スキルが必要であるとされています。また、日本の教師からは、オンライン指導についての課題や不安の声が多く寄せられています。ブリティッシュ・カウンシルは、感染症拡大の今後の流行時に備えるだけでなく、ハイブリッド型という新たな指導モデルを円滑に導入するため、教員への支援を提供します。
【オンライン指導コース概要】
コース名:Teaching Young Learners Online (オンライン指導の理論と実践)
開講期間:2020年6月22日(月)から3週間 ※開講日以降 期間中いつでも参加可能
対象:小学校・中学校・高校の教員 ※オンライン指導の経験は問いません
費用:無料
言語:英語
内容:オンライン指導で使えるツールや指導法、同期型(ライブ)・非同期型(オンデマンド等)で生徒とやり取りをする方法、授業計画、オンライン指導・評価のテクニック、スピーキンやライティングの指導、プライバシー保護やオンライン上の安全性の管理など (コース名にあるYoung Learnersとは5-18歳を指しています)
詳細:https://www.britishcouncil.jp/english/learn-online/moocs/teach
■Teaching Young Learners Online (オンライン指導の理論と実践)
【特 徴】
・研修時間は、1週間につき3時間程度x3週間を想定しています。期間中、都合のよいタイミングで開始でき、自分のペースで学べます。
・理論と実践の両面から、オンライン指導のしかたを扱います。オンラインでの指導スキルや評価、オンラインでの安全、学習者との関係構築、また、同期型(ライブ)と非同期型(オンデマンド等)の双方を取り上げます。
・多くは英語指導においての文脈ですが、英語の指導計画の原則は、一般的なオンラインでの指導においても役立つため、他教科においても参考になる点が多くあります。(他教科では同様の研修機会はあまり提供されていません)
・本コースはMOOCsのプラットフォームFutureLearnのサイトで提供されます。
【研修内容】
第1週:意味のあるやり取り
オンラインの場合、生徒と授業内容に関するやり取りをするのは難しいと考える教師がいますが、実際には可能です。また、生徒の理解度を確認し、共に学ぶ環境を整えることも必要な要件です。
第2週:生徒の参加と、内容や多様性に合わせた指導
様々な生徒の状況や学力等に配慮し、包括的(インクルーシブ)で楽しい授業にするためには、学習者のニーズに配慮し、適切に調整・対応することが求められます。
第3週:実践、評価と向上
オンライン指導においても、スピーキングやライティング力育成は非常に重要な分野です。学習者と保護者が上達を把握できるような学習評価についても扱います。
■オンライン指導のための研修の必要性
国際的なエビデンス(科学的根拠)では、オンライン指導を含めICT導入時には、「(対面・オンラインに関わらず)学習の改善のために欠かせないのは、効果的な指導法」、「教員に対する支援が不十分だと、よい成果をもたらす可能性はかなり低くなる」と言われています。これは導入時の教員研修や継続した支援提供の重要性を示唆しています。
しかし、今回の新型コロナ感染症拡大は緊急事態であり、事前に教員に研修を提供することは不可能でした。オンライン指導についての研修受講や、自分自身でオンライン研修を受講したことがない教師たちは、求められている指導のイメージができません。ましてや、ICT技術に不慣れであったり、十分な自信がない教師は多くいます。
対面指導とオンラインを比較した場合、共通する技術は多くありますが、先行研究によるとオンラインではより高度な指導力が要求されます。オンライン指導特有の配慮すべき点もあります。今年4月以降のオンライン指導においては、教員から様々な不安や課題が聞かれましたが、先行知見によると、こういった課題に対応する確かなノウハウが存在することはわかっており、これらの課題は解決が可能です。
- 教師の声 「オンラインだと生徒とやり取りできない」 「生徒の反応がつかめず、理解したかどうか確認できない」 「そもそもオンラインで多数の生徒とスピーキング活動をするのは難しい」 「復習はともかく、新しい学習内容をどう導入したらいいのだろう」
- 生徒の声 「やり方がわからない」 「先生に質問できない」 「集中できない」 「1人でするのはやる気がでない」 「オンライン指導を受けている人といない人の間に格差が生じる」
「学びを止めない」ために学習時間を確保し、失われた時間を取り戻すことは重要です。これに加え、新学習指導要領にあるような「協働的な学び」、教師と生徒間、生徒同士の関わり合いから学ぶという学校特有の機能の実現や、知識の獲得に加え、「~できる」というスキルを高める視点も欠かせません。そのためには、現職教員がオンライン指導およびハイブリッド式指導に特化した研修を受講することが非常に重要です。
新型感染症拡大により、子供たちだけでなく教師も多大なストレスを抱えています。適切で有用な指導スキルの提供は、子どもにとっても教師にとっても緊急のニーズであると、ブリティッシュ・カウンシルは考えます。
参考:Using Digital Technology To Improve Learning Guidance Report Best evidence on supporting students to learn remotely
■ブリティッシュ・カウンシルのオンライン指導の経験
これまで世界各地の英語指導者に対し、専用のポータルサイト(学習支援システム)を通じて、指導者向けコースを提供してきました(現在は特定教育機関のみが利用可)。現在は、大規模無料オンライン(MOOCs)であるFutureLearnを通じて、英語指導者向けだけでなく、文化やビジネススキルなどのコースも提供しています。2018年度は4600万人が利用しました。
■MOOCsとFutureLearn
MOOCsは“Massive Open Online Courses“ の略で、日本語では「大規模公開オンライン講座」とも呼ばれています。FutureLearnは英国初のMOOCsプラットフォームで、40年以上にわたって世界中に通信教育を提供してきた英国のOpen Universityによって設立された企業FutureLearnにより運営されています。英国内外の大学およびブリティッシュ・カウンシルを含む教育文化機関などが、様々なコースを提供しています。
多くのオンラインコースでは受講者が受け身になりがちですが、FutureLearnでは信頼がおけるエビデンスに基づき、学習成果を高める工夫やしくみを多く活用しています。
■ブリティッシュ・カウンシルの英語教育支援の取り組み
ブリティッシュ・カウンシルは、グローバルなネットワークと専門性を駆使し、英語教育をサポートする多彩なプロジェクトを展開しています。2018年度は、全世界で年間77,000人の英語教師に支援を実施しました。
日本では、新学習指導要領の実施が進められる中、英語教員向けの研修プログラムやセミナー・コンファレンスの開催、英語教育に関する実践事例の紹介などを通して、生徒の実践的な英語コミュニケーション力を育成するため、教員の指導力向上や授業改革へのさまざまな取り組みを支援しています。2013年~2018年の5年間においては、文部科学省の委託を受け、英語教育推進リーダー中央研修の企画運営を行いました。詳細はhttps://www.britishcouncil.jp/programmes/english-education/japan をご覧ください。
<参考>
コロナ感染症拡大前 : ICT(情報通信技術)活用が低い指導の現状
- 「デジタル技術の利用によって児童生徒の学習を支援する (例:コンピュータ、タブレット、電子黒板)」と回答した中学校教員は、OECD48ヶ国平均66.7%であるのに対し、日本は35.0%、「児童生徒に 課題や学級での活動に ICTを活用させる」という教員はOECD平均51.3%に対し、日本は17.9%でした。OECDに比べて、日本の教員はICT活用が進んでいないことは明らかです。 (「非常に良く」又は「かなり」できていると回答した割合)
OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書-学び続ける教員と校長-のポイント (国立教育政策研究所)https://www.nier.go.jp/kenkyukikaku/talis/pdf/talis2018_points.pdf |
教員環境の国際比較:OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)2018 報告書 ―学び続ける教員と校長― の要約(国立教育政策研究所)https://www.nier.go.jp/kenkyukikaku/talis/pdf/talis2018_summary.pdf |
休校措置期間 : ICT活用が進まない、不安や課題が散見
- 双方向のオンライン授業を実施した学校は5%(文部科学省)。これは学校のICT環境整備が一因にありますが、多くの教師が双方向のオンライン授業を未経験であることも示唆しています。
- オンライン学習を実施した教師からは、「生徒がどの程度理解できているかは不明」「教員側の設備・環境や知識が追い付いていなかった」という声が寄せられています。(広島県教育委員会)
- 高校の英語教師からは、コロナ対応のために、「4技能バランスをよく取り組ませる授業が難しくなりそうで不安を感じる」「評価もしづらくなることが懸念される」「スピーキング指導ができない」という声が聞かれます。(ベネッセ) ICT活用はその解決策となり得ますが、学校現場にその方策を研究・準備することを任せるのではなく、世界にある経験や知見を活用することが効果的であり近道です。
新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について(文部科学省)https://www.mext.go.jp/content/20200421-mxt_kouhou01-000006590_1.pdf |
臨時休業中の学習に係るアンケート調査について(速報)(広島県教育委員会)https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/394876.pdf |
「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う 学校指導への影響に関するアンケート」 第2回・結果レポート(株式会社ベネッセコーポレーション)https://berd.benesse.jp/special/VIEW21express/article_03.pdf |
■文部科学省の動き
- 文部科学省はICT端末を活用した家庭学習のための環境整備に向けて、「1人1台端末」の早期実現や、家庭でもつながる通信環境の整備など、令和2年度の補正予算等を行っています。(GIGAスクール構想の加速)
- 授業では、教師と児童生徒の関わり合い、児童生徒同士の関わり合いが特に重要な学習への動機づけや、協働学習・学校でしかできない実習などに重点化し、個人で実施可能な学習活動の一部はICTなども活用して授業以外の場で行うことも視野に入れ、学校の授業において学習活動を重点化する考え方を提示しました。対面指導とオンライン指導を合わせる「ハイブリッド化」という指導モデルを展開するとしています。
- 限られた授業時数の中で、学習指導要領に定める内容を効果的に指導しつつ、学校教育ならではの学びを大切にしながら教育活動を進める方向性を示しています。
令和2年度補正予算概要説明~GIGAスクール構想の実現~(文部科学省)https://www.mext.go.jp/content/20200509-mxt_jogai01-000003278_602.pdf |
新型コロナウイルス感染症を踏まえた、初等中等教育における これからの遠隔・オンライン教育等の在り方について(検討用資料) 令和2年6月 11 日(同上) https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20200611-mext_syoto02-000007826_4.pdf |
「学びの保障」総合対策パッケージ(詳細版)(同上) https://www.mext.go.jp/a_menu/coronavirus/1411020_00004.html#manabi |