ブリティッシュ・カウンシルは、横浜市の英国ホストタウン交流事業の一環で、アーツコミッション・ヨコハマ(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)、国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2021とともに、2021年1月28日(木)、29日(金)、「横浜―スコットランド文化交流プログラム」をオンライン上で開催。フェスティバル・シティとして知られるスコットランドの首都エディンバラを拠点とする2団体が日本のアート関係者と意見交換を行いました。
1日目は、フェスティバルズ・エディンバラでマーケティング・イノベーション部長を務めるジェームズ・マグウェイ氏がゲスト・スピーカーとして登壇し、「フェスティバルズ・エディンバラから学び、実践する芸術祭の戦略」と題したプレゼンテーションを行いました。
スコットランドの首都エディンバラは、多数の芸術祭が開催、世界有数のフェスティバル・シティとして世界的に認知され、それが都市の観光、産業、街づくりにおいて大きな役割を担っています。エディンバラが世界有数のフェスティバル都市になった背景のひとつに、2007年に設立された、11の芸術祭をまとめる民間団体「フェスティバルズ・エディンバラ」の存在があります。最初はバラバラだった11の芸術祭のディレクターたちが理事会メンバーとなり、共同で活動しています。フェスティバルを支えていくにあたり、コラボレーションを成功させるために戦略的に大切なことは何だったのでしょう? マクヴェイ氏は、そのために必要だと考える、「10の鍵」について紹介しました。
コラボレーションを成功させる10の鍵
1 ユニーク・ビジョンを作る
コラボレーションで必要なのは、最初に、共通の明確な「ビジョン」を決めること。それがあってはじめて、すべての人が同じ目標を見据えて、プロジェクトを進めることができます。
2 共通のアジェンダを認識する
「ビション」ができると「アジェンダ」を作ることができます。アジェンダとはつまり、「一緒に何をしたいのか」ということ。全員がアジェンダを提示して納得し、それ以外のことは一緒にやらないことが重要です。
3 合意された原則を展開する
「原則」を明確にしておくことも重要です。例えばフェスティバルズ・エディンバラの原則は、「各フェスティバルの事業運営やスポンサー関係に介入しないこと」。明確にされた原則を、全員で合意して展開していきます。
4 合意に基づいた判断を下す
各団体からアイデアを出し合い、どの答えを採択するかを理事会で話し合います。そのアイデアではなく、他のアイデアが必要かどうかも話し合いによって決めます。時間がかかっても全員が「合意」することを重要視しています。
5 分散型のリーダーシップを求める
一元、集中管理型ではなく、それぞれのテーマによってリーダーとなるフェスティバル団体を変えています。アイデア別に、期限付きでワーキンググループを作り、さまざまなフェスティバルから代表者が参加し、年長者だけでなく、スキルのある若者も、リーダーになることができます。
6 内部のコミュニケーションを確保する
全員がビジョンを理解し、何らかの形でコラボレーションに触れる、かかわれるようにする。理事会、ワーキンググループ、カンファレンスと、メンバー同士が集まる機会を頻繁に確保しています。
7 戦略的なシステムを確立する
中央政府や市議会、大学などの外部のステークホルダー組織からリーダーを集め「フェスティバルズ・フォーラム」を作っています。ステークホルダー組織の人にもビジョンを共有することで、フェスティバルを支えてもらいます。
8 エビデンスに基づいたフェスティバルの価値を示す
ステークホルダーに納得してもらうため、数年に一度、大規模な事業評価を行います。チケット販売、マネージメントデータ、参加者アンケート結果を提示し、フェスティバルの文化的、経済的、社会的価値を具体的に数字で示して、納得してもらいます。
9 ストーリーを伝える
ストーリーを持つことは、対外的にだけでなく内部にとっても重要です。ストーリーによって、コラボレーションの良さやブランドのポジショニングを伝えます。ストーリーは全て4つのキーワード「ワールド」「リーディング」「フェスティバル」「シティ」に関連して伝えることが重要です。常に本来の「ビジョン」に立ち返った話をすることを意識しています。
10 未来に目を向ける
エディンバラの大学と協働し、デジタルとデータを使って、フェスティバルに関して何か新しい取り組みができないか模索しています。将来的にフェスティバルが、アートの発表の場であるだけでなく、新しい考え方を実験する場になることができないかと考えています。
スピーカー・プロフィール
ジェームズ・マクヴェイ(フェスティバルズ・エディンバラ マーケティング・イノベーション部長)
アイルランドに生まれ育ち、4歳のとき、9人の家族と古いモーリス・マイナーに乗ってフェスティバルに初めて参加。その結果、フェスティバルが大好きに、車での旅行が大嫌いになる。ソールズベリー国際芸術祭、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団などでシニアマネージメントを経験し、アーツ・カウンシル・イングランドでは2,500万ポンドの地域支援の責任者を務めた後、フェスティバルズ・エディンバラ初のマーケティング・イノベーション部長に就任。文化的インフラのキー要素としてのフェスティバルへの関心から、フェスティバルをめぐる政策の文脈を展開するほか、フェスティバル間の国際的パートナーシップ構築に取り組み、「ヨーロピアン・フェスティバル・リサーチ・プログラム」などを実施している。ユニークなコラボレーションによって組織されているフェスティバルズ・エディンバラ— 現在25,000組を超える国際水準のアーティスト、1,000以上の公式メディア、4,500万人の観客、スコットランド経済への3億3,800万ポンド以上の貢献を誇る — の現場では、世界を主導するフェスティバル・シティとしてのエディンバラの位置づけを保ちかつ成長させる役割を担っている。また、ユネスコ文学都市トラスト評議員、ニュー・メディア・スコットランド理事を務める。