令和6年度文部科学省委託事業 - 全国の英語教員対象
「教師の英語力・指導力向上のための実践的オンライン研修」第一次報告
- 「話すこと(やり取り)」の指導に焦点を当てた研修
- 中学・高校の英語教師の現状とニーズを踏まえたライブワークショップとeラーニングの10時間のコース
- ワークショップ参加者の9割以上が授業実践に意欲、授業改善を行った報告多数
- ブリティッシュ・カウンシル初のAIを活用し開発したeラーニング教材
英国の公的な国際文化交流機関であるブリティッシュ・カウンシル(日本事務所所在地:東京都新宿区 駐日代表:ジム・ブース)は、本年、文部科学省委託事業 「教師の英語力・指導力向上のための実践的オンライン研修」を実施しています。日本の中学校、高校の英語教師の現状やニーズを踏まえてブリティッシュ・カウンシルが開発したもので、発信力の強化、特に「話すこと(やり取り)」の指導に焦点を当てた10 時間のコースです。
研修コースは、ライブで参加するワークショップ(同時双方向型)と、個人で取り組むセルフアクセス(eラーニング)双方の特徴を効果的に組み合わせ、指導についての技術や知識の習得を支援し、授業改善を進めることを目的としています。中学校教員400名、高等学校教員400名の定員に対し、全国より大幅に上回る応募がありました。
参加者はライブワークショップでの学習を経た後、約半年をかけて各自eラーニングで学習を継続します。ブリティッシュ・カウンシルがまとめたワークショップ参加者のアンケート結果では、参加者の多くが研修内容に非常に肯定的な回答を寄せています。
■研修の特徴
- ライブで実施するオンラインワークショップ1モジュール2時間と、セルフアクセス(eラーニング)3モジュール計8時間、合計10時間のコース。
- それぞれのモジュールで学習したあと、研修で学んだ指導技術を授業で実践する「事後タスク」により、授業改善を進め、指導への自信を高める。
- まず同時双方向型のワークショップで、英語指導の国際資格と日本での教員研修で豊富な経験をもつ講師によるデモ授業を体験。必要な指導上の配慮や支援の具体的・実践的な例を学ぶ。
- 続いて、セルフアクセス(eラーニング)で、第二言語習得、動機付け、学習科学など、妥当性のある科学的根拠に基づいた効果的な指導法と、その指導を行うべき理由や効果への理解を深める。
- eラーニングでは、ブリティッシュ・カウンシルが英語教員向け研修で初めてAIを採用。多様な教師や生徒を登場させ、実際にありそうな教室でのやり取り、解説に沿った指導場面のアバターや音声をつくり、参加者がより効果的に指導技術を学ぶことができるオンライン教材を開発。
詳細 https://www.britishcouncil.jp/programmes/english-education/japan/ote
■参加者のアンケート結果によるワークショップの総括
中学校教員
- ワークショップ事後アンケート回答者397名のうち97.9%が、「研修を通して新しい知識やスキルを得ることができた」に対して、大変そう思う、そう思うと回答。「この研修で得たことを自分の指導に生かしたい」には98.5%が同様に回答。
- 教師の授業中の英語使用が増加:事後タスクの報告においては、授業中に教師が発話の半分以上を英語で行っていると答えた回答者が、6月の事前アンケート時は55.8%で全国平均以下であったが、ワークショップ参加以降の回答は70.5%と、大きく増えた
高等学校教員
- ワークショップ事後アンケート回答者392名のうち93.7%が、「研修を通して新しい知識やスキルを得ることができた」に対して、大変そう思う、そう思うと回答。「この研修で得たことを自分の指導に生かしたい」には95.7%が同様に回答。
- 教師の授業中の英語使用が増加:事後タスクの報告においては、授業中に教師が発話の半分以上を英語で行っていると答えた回答者が、6月の事前アンケート時は38.8%で全国平均以下であったが、ワークショップ参加以降の回答は50.1%と、大きく増えた
事後アンケート結果および事後タスクの報告の全体はこちらのページの「参考資料」でご覧ください。
https://www.britishcouncil.jp/programmes/english-education/japan/ote
中学校教員と高校教員のどちらの研修においても今回明らかになったのは、2時間のワークショップの参加で、98.5%の回答者が「研修で得たことを指導に生かしたい」という前向きな感想を抱いたこと、そして、実際に多くの回答者が学んだことを授業の実践で活用したということです。特に、ワークショップの参加の後、授業での教師の英語使用量の著しい増加に繋がりました。これは、同時双方型のワークショップ形式で具体的な指導技術を扱い、教師の使用する英語の質にも重点を置いたことが、教師の意欲を喚起し、英語使用量の増加につながったことを示しています。
このような肯定的な受け止めは、当ワークショップには、教師による授業改善に必要なメカニズムを多く含んでいたことが理由である、とブリティッシュ・カウンシルでは結論づけています。授業改善のための研修には、オンラインか対面にかかわらず、以下の要素が、指導法の習得と実践への意欲に必須であると分析しています。
- 受講者が必要とする内容の厳選
- 教室で使える指導技術をその根拠と共に示す
- 講師の指導モデルの体験・練習
- 日頃の課題解決につながる振り返り
- 仲間と共に主体的に参加する状況
参加した教師から寄せられた感想からも、この要素が裏付けられます。
■ワークショップ参加と事後タスクの代表的な感想
中学校教員
【ワークショップ】
- スモールトークの実践が注目されている中でも、ここまで具体的な指導法の紹介は初めてでした。実際に自分が授業してみることで、教室をイメージすることができました。
- 今回の研修を通して、スモールトークを行う際にどのようなステップがあるとよいのか、またそれはなぜかということも含めて学ぶことができた。
- トレーナーの先生は具体的な指示を、デモンストレーションを通じてシンプルかつわかりやすく示してくれました。また難易度がちょうど良く自分の学年やクラスですぐに実行できると感じました。
- グループごとに分かれ、他の先生方と実際に授業をして意見交換ができたことも非常に勉強になりました。
【事後タスク】
- デモンストレーションや練習を経てからスモールトークに取り組むことで、自信を持って会話に取り組んでいる生徒が多く見られた。
- 下位層の生徒もスムーズに質問していたのがびっくりでした。
- 実践の初回から英語のまま理解しようと努める様子があった。継続したことで英語での場面設定や課題提示が自然に受け入れられる様子が見えてきた。
- 研修で教えていただいたFinger DrillsとBack-chainingの技術を使うことで、より正確な文法を音とともに意識しながら発話する様子が見られた。いつもより、文法の正確性が増した様子でした。
高等学校教員
【ワークショップ】
- 本文の内容理解から自分の言葉(英語)でディスカッションをするに至るまでをスモールステップで取り組ませる方法を具体的に知ることができ、今後の授業で取り入れた場合をイメージしながら受講できました。
- 教科書をどう活用してスピーキング活動に持っていくか悩んでいたので助かりました。リテリングに陥りがちだった指導の改善のきっかけにもなりました。2学期が楽しみです。
- 英語の授業において日本語を使うことを躊躇していたが、母語の使用が第二言語での言語活動にプラスの影響を与えるということもあるということがわかった。
- あまり授業内でディスカッションを行うことができておらず、リテリングばかりを行いがちなので、生徒が主体的に物事を考えられるように定期的にディスカッションを実施することも必要だと感じました。
- デモンストレーション実施後に、活動にどのような意味があるのか、なぜそのような手順で指導するのか等、説明してくださるので、自信を持って授業実践ができると思います。
- 講師の指示は非常にわかりやすく、自分が生徒に話しかける際の参考になりました。
- 全国から参加されている方々と一緒に研修を受けられて、モチベーションが上がりました。
【事後タスク】
- 生徒が使うであろう文法項目や語彙を導入してから活動できたことで、生徒の発話がスムーズに行われたこと。1つのテーマについて様々な選択肢を用意することで、繰り返し同じ表現を使いながら、別の事柄について理由付けながら話をさせられた。
- 日本語で考えを最初にシェアすることによって、お互いに話す環境が整った。その後英語でその国の名前や、行きたい理由をどのようにいうか、またなんと質問したらいいのか生徒が主体となって考えることができた。足場架けをしてあげることにより、生徒の発話がうまくいくようになった。
- 出だしの質問を何回か練習した後に実施したため、やり取りがスムーズだった。理由も付け加えて述べるように指示したので、さまざまな生徒の考え方を知る機会を得ることができた。
- まずは自分で考え、ペアで質問をしながら考える、そして共有するといった流れを徹底したことで、自分の意見を持って交流することができていた。
- (事後タスクをおこなったことで)生徒は自身が想定していた以上の発想力を持っており、表現レベルも高かったため、さらに生徒の興味関心を引くトピックで、こちらで限界を決めず、進捗状況に応じて生徒の思考をさらに深堀するような追加質問等を行い、柔軟に対応していくべきである、ということを学んだ。
- ディスカッション活動に限らず、指導の順番が重要であると、実践を通して学びました。
なお、ワークショップを終えた研修参加者は、現在セルフアクセス(eラーニング)で学習を継続しています。ブリティッシュ・カウンシル初のAIを使った研修教材によるeラーニングには、生徒や教師のアバターが多数登場します。AIを使うことで、実際にありそうな教室でのやり取り、解説に沿った指導場面のアバターや音声を作り出すことができます。また、英語の訛りや、人種、性別、障害、異なる母語をもつ教師や生徒を登場させることも可能です。AIを活用することで、人が出演して実際に撮影する動画よりも、効率的に多様な設定を構築し、効果的に指導法を紹介することができます。
eラーニングの結果を含む本研修のまとめについては、2025年の春に発表する予定です。