楽曲《Curious-er》ができるまで

英国で活躍する障害のあるアーティストと作品を紹介するシリーズ、「#CultureConnectsUs UK Disabled Artist Showcase」。

今回紹介する楽曲《Curious-er》の作曲者、ソニア・アローリは現代音楽の作曲家、パフォーマー、そしてコミュニティ・ミュージック・セラピストとして活動しています。

さまざまなジャンルの音楽家や演奏家団体とのコラボレーションを通じて表現領域を広げてきたアローリ氏。近年では、マルチメディアを活用し、感覚に訴え幼児や子どもを含むインクルーシブで実験的な活動を続けるシアターカンパニーOily Cartや、ロンドンのCandocoダンスカンパニー、およびロイヤル・オペラ・ハウスとも共同制作を行なっています。

最新作《Curious-er》は、ドレイク・ミュージックのコミッションにより制作。音と言葉、イメージが豊かに組み合わさったこの作品はどのようにして生まれたのでしょうか。

ウィンドシンセサイザー『EWI(イーウィ)』の可能性

アローリ氏の創作活動を語る上で、ウィンドシンセサイザー(電子管楽器)のAKAI EWI*シリーズの存在は欠かすことができません。《Curious-er》にもこの楽器がメインで使用されています。一般的には広く知られていない楽器ですが、どのようにして出会ったのでしょうか。

「以前からクラリネット演奏家として活動していたのですが、ある日突然、病気になり人生が一変しました」

顔の筋肉が麻痺し聴覚を失ったため、演奏が困難に。しばらくして友人に紹介されたのがEWIでした。

「EWIが私の元に届いてから3日後には演奏ができるようになっていました。素晴らしく直感的で、軽く、繊細な楽器です。そのため、わずかに残された顔面の筋力だけで、細やかな抑揚やイントネーションを表現できるのです。これは本当に大きな発見でした」

クラリネットのような外観を持つEWIは、声帯から口唇へと息を吹き込み、木管楽器と同じ指使いで演奏します。さまざまな音質に対応しており、エレクトロサウンドから伝統的なアコースティック楽器の演奏が再現可能。「その二つの世界を行き来する二面性がお気に入りです」とアローリ氏は声を弾ませます。

「私はエレクトロ・アコースティックの作曲家ですが、まだこの楽器の可能性を知り始めたばかりです。今は、デジタル音楽制作ソフトAbletonを使って作業していますが、そのおかげで次のレベルの表現にチャレンジできそうです」

新たな制作プロジェクトは、「自然と風、そして呼吸」がテーマ。EWIがその中心的な役割を果たすことになるのでは、と期待を寄せます。

「私はつねに環境問題について考えているのですが、現在は、ポストコロナについても詩的な想像を働かせています。新しい作品は、エコ・ポエティックというジャンルに入れてもいいかもしれません」

*Electronic Wind Instrumentの略。

音と言葉、イメージの融合

音と言葉、イメージを組み合わせた独特の作風で知られるアローリ氏。新作《Curious-er》の制作は、パートナーが撮影した一枚の写真から始まりました。

「背景は砂浜です。貝殻に当たる陽光と飛び散る光の粒子が印象的な写真でした。貝殻はまるで2つの小さな耳のように見えました。それで、耳を傾けることについて考えたのです。私は耳が聞こえないので、より強く心に響いたのだと思います」

制作にあたって、どうイメージを膨らませていったのでしょうか。「この作品は一つの短い詩の一節をベースに発展させました。それは、曲の冒頭に現れ、リズムが生まれていきます」。さらに、そのモチーフを作品全編の音のテクスチャーの中に奥深く埋め込んでいくのがアローリ氏のスタイルです。

「私は自分が書いた音楽を聴くということがもうできません。しかし、制作を通じてこの現実に折り合いをつけることができました。それは、聴覚の想像力を信頼することを学んだからです。心の中に記憶されている音を参照するのです。物理的に聞こえてくるものに縛られないので、想像力をさらに解放することができるようになったとも思います」

希望に満ちたトーンで進む《Curious-er》。そこは、人生を肯定するものであると同時に、時に不安を感じさせます。そして聞き手の期待に反して、曲は唐突に終わります。

コミュニティ・ミュージック・セラピストとしての活動

アローリ氏は、音楽臨床士としても長年トレーニングを積んできました。しかし、通常の音楽臨床士(ミュージック・セラピスト)という肩書きに氏は「コミュニティ」の一語を加えています。

「音楽臨床の世界では、主に障害の医学モデルに基づいて障害を治そうと試みます。一方、私は障害の社会モデルに基づいたアプローチを採用しています。つまり、障害のある人はその人自身ではなく、社会がつくった障壁によって障害を負っているという考え方が根底にあります」

これまで、劇場や音楽に関するさまざまな公共イベントでも、セラピーを目的とした活動を行ってきました。2019年、スコットランドのハイランド地方で取り組まれたプロジェクト『Lost and Found』がその一例です。

「脳卒中を患い、病院から自宅に戻ってきた方たちとともにワークショップを行いました。私自身も脳卒中の経験者。人生の失ったものの大きさを嘆きつつも、どうすれば前を向いていけるのか。音楽を通じてポジティブな意味を見出すサポートを実践しました」

続けて、コラボレーションすることが大好きだと語るアローリ氏。「音楽を通して人々とつながることや、今の仕事ができることすべてに感謝していて、とても幸運だと感じています」

アーティストからのメッセージ———

スコットランドのハイランド地方から、こんにちは!みなさんとつながることができて、とてもうれしく思います。パンデミックは私たちにさまざまな試練を与えましたが、決してあきらめてはいけません。私は、アーティストとしてこれからも好奇心を持ち続け、自分のそしてみなさんの人生の中により多くの気づきを発見していきたいと思っています。自分の心を信じ、夢を追い続けましょう!

#CultureConnectsUs UK Disabled Artist Showcase紹介アーティスト

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