持続可能な都市をデザインするための具体的な方策とは?
チャレンジ
いま、世界人口の半分以上が都市に集中しており、その割合は2050年までに66%を超えると予測されている。都市人口の増加は、エネルギー供給、交通、上下水道や都市部の居住者が利用する生活空間といった既存のインフラにさらなる負担を加えることになる。これは、人口密度の上昇だけでなく、人口の増加を支える雇用・サービスを創出するための商業・産業活動が増加するためである。くわえて、建物の過密・高層化と郊外・地方への拡大を通じて、都市空間は変貌を遂げることが予測される。
ゆえに、居住・労働空間を管理・組織し必要なサービスを提供する新たな方策が必要となる。本質的には、消費を減らし、有限な資源への依存と環境汚染を減らし、持続可能な社会形成へとつながる新たな技術やアプローチを見つけ、活用していく必要がある。
こうした課題解決のためには、都市計画に関する新たな政策とアプローチが求められ、また持続可能な道筋を促すような適切なガイドラインに基づいた建築デザインが必要となる。本スクールでは、エネルギーを主要テーマに据え、あらゆる人々へのサービスを提供するためにエネルギー需給をいかに最適化できるか、ということに焦点を置いた。天然資源を利用する都市の電力・熱供給システム、さらにビルや交通機関を考察することが必要となるが、これらシステムはエネルギー効率を高めて環境影響を最小限にする取り組みと合わせて考える必要がある。こうしたアプローチは、新たな雇用の創出、経済成長につながり、社会的一体性と繁栄を可能にするというデータもある。
目的
RENKEIのワーキンググループのひとつとして、東北大学とサウサンプトン大学は連携して若手研究者のための2つのスクールを企画し、世界的な都市を取り巻く課題、特に都市のエネルギー供給に焦点を当てて、知識・意見交換のためのプラットフォームを提供した。
2014年9月8日から12日まで、東北大学にて最初のスクールであるサマースクールが行われた。本スクールでは、従来型と環境配慮型の二つの成長モデルから考えるエネルギー供給をテーマとして掲げた。続いてサウサンプトン大学で2015年3月22日から29日に行われたスプリングスクールでは、21世紀都市の地域別エネルギー供給について、低炭素化に焦点を置いて考えた。いずれのスクールにも、多様な学術分野、産業界や行政機関の専門家の協力を得た。
本スクールは、若手研究者が意見を交換し、ともに共通のテーマについて取り組むことができるように準備された。参加者は各グループに分かれて、特定の研究観点および、従来型、伝統型および環境配慮(低炭素)型のエネルギー供給システム間の差異を考察した。スクールの成果として、21世紀そして未来の都市のエネルギー需要を支えるための解決策をグループ・プレゼンテーションで発表した。プレゼンテーションは特別委員によって審査され、最優秀グループはスクール最終日の夕食会で表彰された。
プログラムの概要
各スクールのプログラムは、テーマに熟練した講師陣、実用的な知識と理解を得ることを目的とした関連施設の訪問、およびグループワークから構成された。各スクールは1週間の限られた期間内に有意義な成果を生み出せるよう、柔軟に設計され、授業、関連施設訪問、グループワークを毎日自在に組み合わせて実施された。また参加者は参加者間だけでなく、教員や訪問先機関の担当者との交流の機会を得ることができた。
スクールのテーマに関連のある各分野からの著名なゲストスピーカーが刺激的なプレゼンテーションを、ときにはインタラクティブな方法で、ときには参加者と議論を交わしながら進めた。参加者は、各分野の最先端の知識や情報を得るだけでなく、質疑応答やネットワーキング通じてこれら専門家と交流を深めることもできた。
参加者らは、多様な背景を持つ若手研究者同士のグループに分かれ、各自の知識を最大限に活かしながら、トピックに応じた課題解決に取り組んだ。各グループはリサーチやディスカッション、調査結果の共有に時間を取り、最終日に成果を発表したが、技術的・社会的に困難のある概念的な課題解決のために連携し、解決策や戦略を生み出しただけでなく、研究プロジェクトの成果を社会に還元する方法も展開した。
各スクール最終日の午後、各グループは他の参加者だけでなく、地方行政機関、産業界やRENKEIメンバー大学からの出席者に向けて成果を報告した。特別審査委員が各プロジェクトの成果について審査を行い、最優秀グループには賞が授与されたほか、各参加者にはワークショップ参加サーティフィケートが授与された。
プログラムの成果
東北大学サマースクール
サマースクールは2014年9月8日から12日に東北大学にて開催され、RENKEIメンバー大学からの17名の参加者が持続的な都市デザインについて学び、体験し、議論を交わした。グループ・プロジェクトにより、参加者らはエネルギー供給インフラの系統的な違いを認識することができるようになった。また、9名の教員が技術、農業、経済、社会面から持続可能性に関する講義を行い、学生や教員を含むすべての参加者が、互いに交流を楽しんだ。スクールの4日目には、下記のテーマで各グループのプロジェクトを発表し、上位3グループが賞を授与された。
Aグループ:地域コミュニティに基づく街づくりへの転換
Bグループ:開発途上国メキシコのカンクンを対象とするエネルギー需要と設備容量
Cグループ:厳しい気候帯に属する街づくりの未来デザイン
Dグループ:バレンシアの持続可能な街づくりとエネルギーシステム
また本スクールでは、東北大学とサウサンプトン大学間の積極的な研究協力を開始するための案や機会が生み出された。さまざまな持続的エネルギーシステムを用いた低炭素都市の推進プロジェクトなどが計画されている。
サウサンプトン大学スプリングスクール
サウサンプトン大学で2015年3月22日から29日に実施されたスプリングスクールには、RENKEIメンバー大学のほぼすべてから20名が参加した。
スクールのテーマである都市の地域別エネルギー供給に関し、ゲストスピーカーの経験を交えた11の講義が実施され、持続可能なエネルギー供給システムおよび伝統的なエネルギー供給システムの技術的な課題から、財政・コスト分析、社会への影響まで、幅広く検討した。こうした講義は参加者のグループワークにも大きな影響を与え、取り上げられた課題とその社会的な影響について、活発な議論が交わされた。
ワークショップの1日目から参加者は各グループに分かれて課題に取り組んだ。最終プレゼンテーションは非常に質が高く、わずか5日間で、しかも参加者にとってあまりなじみのないテーマのもとで成し遂げられたとは思えないほどの成果を収めた。スプリングスクールでは、下記のテーマで各グループが発表を行った。
グループ1:プリマスにおける水素・ニトログリセリン燃料の熱電供給を通じた低コスト・低炭素の地域別エネルギー供給に向けて
グループ2:サウサンプトンの新開発地域における地域別エネルギー供給
グループ3:サウサンプトンの地域熱供給デザインと最適化
グループ4:トリジェネレーションによる再生可能な地域エネルギーシステム:台湾の小島の事例
グループ5:開発途上国都市のための地域エネルギーシステムデザイン:ボリビア ラパス/エル・アルトの事例
スプリングスクールの成功を踏まえ、サウサンプトン大学のバハジ教授は、ブリティッシュ・カウンシル、東北大学およびサウサンプトン大学がRENKEIプログラムを拡大し、日英主要都市の地域行政機関、地方議会からの参加を得ることを提案した。
仙台およびサウサンプトンの2つのスクールは、結果的に下記の目標を達成したといえる。
- 水、エネルギー、食糧システム(とそれらの平和・紛争との関係)の観点から、地域の再生可能エネルギーの市場浸透、地域のエネルギー生産と配分について検討する、PhD・研究者レベルの共同研究の可能性の追求
- 上記のテーマで、以下の点に焦点を置いた日英2つのスクールの樹立
― 日本におけるフクシマ以降のエネルギーの流れおよび地域社会ベースのエネルギーシステム構築・発展について理解する(2014年9月)
― 地域で生み出されたエネルギーの供給と需要に関する都市研究(2015年3月) - RENKEIメンバー大学で学ぶ他の大学院生が今後の研究テーマにおける議論に参加するためのプラットフォームの強化
リード大学
- 東北大学
- サウサンプトン大学