By ブリティッシュ・カウンシル アーツチーム

2020年 08月 19日 16:50

写真提供:ウィズ・ワン・ボイス

新型コロナウィルス感染症の拡大によって生まれた孤立やデジタルデバイドの課題にアプローチするアートプロジェクトが英国内で立ち上がっています。

新型コロナウィルス感染症の拡大によってオンラインを介した新しいコミュニケーションは飛躍的に普及しましたが、その一方でデジタルを通して他者とつながる手段がない人々にとっては、より社会的に孤立した状況に置かれることになり、コロナの長期化とともに孤立の問題は深刻化しています。英国では、路上で生活している人々を新型コロナウィルス感染症から守るため、3月末から自治体がホテルを一時的に借り上げ、ホームレスの方々に提供しました。しかし、ホームレスの大多数はスマートフォンやパソコンを持っていないため、コロナ禍で急増した豊富なオンラインコンテンツにアクセスすることができないことで、さらに孤立が深まるという課題が生まれてきました。

こうした孤立やデジタルデバイドの課題にアプローチするアートプロジェクトが、英国においていくつか立ち上がっています。その中の一つ、「"Send a Smile" Postcard Project」は、来年2021年の英国文化首都に選ばれたコベントリー市や、音楽を通してホームレスの人々が前向きに社会と関わることができる機会を提供している英国のアート団体ストリートワイズ・オペラが立ち上げた国際的なイニシアティブ、ウィズ・ワン・ボイスらによる共同プロジェクト。ホームレスの人々にポストカードを配布し「笑顔」をテーマにした絵や言葉を描いてもらい、それらを他者と交換するというもの。日本からも大阪・釜ヶ崎を拠点にアートを通したコミュニティ作りに取り組むNPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)の協力で地元の人々が20名以上参加し、英国の人々にポストカードを送りました。プロジェクト全体として英国内外あわせてこれまでに3500枚のポストカードが配布されているそうです。カードの交換というシンプルな手法ながらも、困難な状況の中、他者に思いを馳せて人と人とを国境を越えてつないでいこうとする趣旨のプロジェクトです。

大阪の釜ヶ崎の人々が描いたポストカード(写真提供:ココルーム)

ウィズ・ワン・ボイス代表のマット・ピーコックが執筆した記事によると、ほかにも、アーティストがホームレスの方と1対1で電話越しにリーディングを行うプロジェクトや、刺繍を編んでいくプロジェクトなど、ロックダウン中に孤立に直面した人のために、英国各地でアーティストやアート団体によってさまざまなプロジェクトが行われています。さらに、ウィズ・ワン・ボイスはホームレス当事者、大学機関、政策立案者とも連携し、こうしたアートプロジェクトの効果について調査を行い、ホームレスや社会的孤立といった課題にアプローチする上での文化芸術の重要性について提言を続けています。

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