4技能の指導を取り入れることで、授業の組み立てや生徒の能力はどう変化するのでしょうか。ブリティッシュ・カウンシルの教員研修に参加経験のある、岡山県立岡山大安寺中等教育学校教諭(1学年主任)の山田樹生子氏に、授業の実践方法やその工夫について話を聞きました。

——英語4技能の指導は、生徒の英語力向上にどのような意義をもたらしますか?

4技能の指導は、実際に英語を使う場面で必要とされる「状況を把握する力」「複数技能を処理する力と速度」「相手話者への共感と交渉力」を高めると考えています。目標は、日本語でできることを英語でもできるようにすること、そして、英語学習を通して豊かな話し手を育てることです。母語と英語が補完し合うことで、語学力が向上すると考えています。

——4技能の評価はどのように実践されていますか?

発信型スキルを中心に定期的に評価します。リーディングやライティングでは、授業ごとにCAN-DOリストを元に生徒が書いた短文ライティングを評価し、教員がフィードバックをします。また、スピーキングやリスニングでは、授業前後にNHKラジオ英会話の暗唱、月ごとに同英会話のスキットコンテスト、学期ごとにインタビューやマイクロ即興ディベートなどのパフォーマンステストを行います。ラジオ英会話の話し言葉はスキットで自分のことを話す時に役に立ちます。前期課程(中学生)の3年間を中心に取り組んでいます。

後期課程(高校生)を担当していた時は、言語活動を活用して要約する力の育成に取り組みました。リーディングでは、まず複数の抽象概念を用意し、どの概念が内容を表すのに適切か生徒に考えさせました。スピーキングやリスニングでは、その後にペアでの意見交換を行います。学期ごとに選んだ抽象概念とその理由についてグループ討議などを行い、パフォーマンステストとしてその様子を評価します。1授業時間でクラス全体を評価することができ、有効な活動でした。ライティングでは、生徒は選んだ抽象概念の理由とともに要約を書きました。この活動を通して、生徒は文章について深く理解し、また内容のメタメッセージを考えることができるようになりました。

——ブリティッシュ・カウンシルの教員研修に参加したことで、授業実践や生徒の能力にどのような影響がありましたか?

研修では教員が生徒の立場になって受講し、最新の指導法を数多く学びました。その経験から、授業の組み立てに対する考え方が、「教師視点」から「学習者視点」に大きく変わりました。また、複数の技能を同時に使った指導法を体験しているうちに、自分の英語が伸びている体感がありました。4技能の指導は英語力向上に効果的であると自分の経験から改めて分かりました。さらに、研修では4技能の指導に必要な、発問の仕方や教材の作り方などのスキルも学ぶことができ、授業で自信を持って英語を使用しています。

生徒については、4技能すべてで能力の向上が見られました。例えば、研修後は後期課程の担当でしたが、英語の使用機会が増えたことでリスニング力が向上しました。学期ごとのパフォーマンステストの結果では、スピーキング力の伸びが見られ、テキストの内容の言い換えや概念化を通して、読解力もつきました。また、現在指導している前期課程においては、入学時よりも英語を好きになったと答える生徒が増え、4技能を統合的に学ぶ授業の効果があらわれています。

——生徒が授業で英語を楽しく学習していくために、重要なことは何でしょうか?

教える側も学ぶ側も「心が踊る」ことです。具体的には授業で次のことを意識しています。

1「実際の場面に近づける」、2「関わりの中から学ぶ」、3「前向きな感情を共有する」です。

1では、説明の後にモデルを演じてみたり、理解を確認するICQsやジェスチャーを効果的に使ったりします。2では、コミュニケーション活動をする際に、ペアやグループで相手を変えながら、やり取りに意味を持たせます。3では、フィードバックを効果的に使用します。生徒の努力やよいところをしっかり褒めて、自信をつけさせます。自己評価や他者からの評価を活用し、改善点を伝え、生徒の気づきを促す建設的なフィードバックを心がけます。「楽しい」「分かる」は学習への動機付けの最たるものだからです。

また、授業以外の時間も活用します。例えば授業で扱う洋楽を清掃時間に鼻歌で歌うと、生徒が関心を示します。すると、その後の授業で自然に導入することができます。やはり、「教員が楽しむこと」が大切だと感じています。