言語試験には、どのような目的があり、英語力の育成にどう役立つのでしょうか。また、公平な評価はどのように担保されるのでしょうか。IELTSやAptisといった言語試験の開発・研究に取り組むブリティッシュ・カウンシル。その英語評価研究開発部門に所属し、プロジェクトを推進するJohanna Motteramに話を聞きました。

——ブリティッシュ・カウンシルは、IELTSやAptisの言語試験の開発において、どのような役割を果たしてきましたか?

1941年にケンブリッジ大学英語検定機構とパートナーシップを結んで以来、長年にわたり共に国際的な英語試験の開発に関わってきました。ブリティッシュ・カウンシルはIELTSの開発と運営では中心的役割を果たし、コンピューターベースの言語テストAptisは2022年に10周年を迎えました。

これ以外にも、言語テストによって教育関係者(教員、学習者、教科書会社など)がどう変化するのか、その影響について多くの研究を行っています。そこで得た結果を活かし、指導・学習・評価・カリキュラム・基準の観点から、言語教育にとっての最善の改革について多くの国の政府機関や教育機関へアドバイスを提供しています。

——IELTSとAptisの目的について教えてください。英語教育や実践的な英語力育成にどう役立ちますか? 

IELTSやAptisのような4技能試験では、日常生活で必要とされる「話す」「聞く」「書く」「読む」能力を測ります。生徒や教師の「話す」「書く」能力の向上を目指すのであれば、言語テストにもこの2つを含めることが重要であると調査によって明らかになっています。他者とのコミュニケーションに不可欠な「話す」と「書く」が評価対象に加われば、授業の内外でもその実践が中心となり、役に立つ実用的な言語学習となるはずです。

身近なものや経験を示す絵について説明するよう受験者に求めるスピーキングテストがあります。物事や経験を上手に説明する方法を学ぶことは、自分について話すことで友人を作ったり、他の人が物を探したり選んだりするのを手伝ったり、自分の考えを相手に納得させるなど、実際の様々な状況で役立ちます。

若い人たちが英語をコミュニケーションのツールとして使えるようになれば、それが世界中とつながるきっかけになるでしょう。「話す」「書く」に自信をもてることで、オンラインでの交流、留学、グローバル経済への参加など、可能性は広がります。

——受験者の4技能を公平に評価するには、どうしたらよいでしょうか?

「話す」「書く」の評価では、よく似た出題をして、その回答を記録し、同じ基準に照らし合わせて判断します。例えば、身近なものの写真描写を求めるスピーキング問題では、受験者の回答を注意深く聞きとり、一連の評価基準に照らし合わせて、どの程度うまくできたのかを測るのです。

これらの評価基準は長年の開発と実践に基づいており、様々なレベルのスピーキング力を示すものです。試験者にはトレーニングを実施し、一貫して信頼できる基準の適用を実証するテストに合格した試験者のみが評価を行います。スコアの判定は極めて重要であることから、試験者のパフォーマンスは慎重にモニターされます。「2〜3人の試験者を配置する」「多数の試験者が採点したパフォーマンスをランダムに取り入れる」「定期的にダブルチェックする」「統計的なモデル化を実施する」などです。​試験結果の利用目的によっては、これらを組み合わせることもあります。

大規模試験の評価では、ブリティッシュ・カウンシルは、現実的な課題の改善に向けて、テクノロジーの活用にも注力しています。コンピューターベースのAptisでは、「話す」「書く」の迅速かつ正確な評価において、10年の実績があります。グローバルネットワークを活用することで、認証試験者が24時間365日、世界中の受験者の採点を行っています。また、受験者のパフォーマンス・試験者・認証システムを安定したインターネット接続でつなぎ、2~3日で成績を出します。試験規模が非常に大きい場合は、もう少し時間がかかり、より多くの試験者が関わりますが、実証済みの同じ原則に基づいて評価を行います。

——日本では、スピーキングスキルを公平に採点するのは難しいという声もあります。適切に評価できるのでしょうか。

答えは「イエス」です。しかし、公平に採点する訓練と、それに関する明確なガイドラインがなければ困難といえるでしょう。やはり、言語能力の評価には、専門家の関与が必要なのです。ブリティッシュ・カウンシルでは、試験者に対してたいへん厳しいトレーニングとモニターを行っています。試験者には経験豊富で能力に非常に長けた英語指導者のみを採用し、トレーニングを経て実証性を担保してから採点を許可しています。どのテストであっても採点が行われる都度、必ず信頼性をモニターしています。Aptisでは、多くの試験者が採点したパフォーマンスをランダムに取り入れる方法で、各試験者が基準に沿って確実に採点していることを確認しています。

スピーキング力を判定する私たちの基準は、長年にわたり発展してきた国際標準に則っており、学習者がどのレベルでどのように言語を使用できるのかを示すものです。受験者がその言語を使って何ができているのかを重視し、コミュニケーションを図ろうとするその姿勢を評価しています。

 

ジョアンナ・モッテラム
ブリティッシュ・カウンシルの英語評価研究開発部門に所属し、教育機関や政府機関への評価ソリューションのコンセプト立案、実施、評価を率いる。近年のプロジェクトにはシンガポールのSkillsFuture Singapore に対するWorkplace Literacy and Numeracy (WPLN) 評価開発、インドのHealth Education EnglandへのIELTS準備コースのカスタマイズを実施。教師として英語と応用言語学を教える経歴を経て、多様な文脈での教育、学習、評価について研究を続けており、試験を活用して教育や社会に前向きな変化をもたらすプロジェクトに携わっている。