Professor Barry O’Sullivan

実践的な英語のコミュニケーション力を身につけるためには、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能すべてが必要です。英語4技能育成の重要性、評価が学習者に与える効果、日本で求められる教育改革について、ブリティッシュ・カウンシルで評価研究グループ部門の責任者を務めるBarry O’Sullivanに話を聞きました。

——実践的な英語コミュニケーション能力を身につけるために、「読む」「聞く」の2技能だけではなく、「話す」「書く」を加えた4技能が重要である理由は? 

4技能は相互に連携するため、すべてを伸ばすことが非常に重要です。例えば普段の会話において、私たちは相手の話を聞き、適切な返答をします。「聞く」「話す」は密接に関係しています。

また、私たちが文章を書くのは、メールやテキストメッセージのような外部からのインプットに反応するとき、あるいは学生であれば教授が設定した課題に答えるとき。文章を書くためには本や論文を読んだり講義を聞いたりして、情報を集めなければなりません。

「読む」「聞く」だけの学習では実生活での言語の使い方を学ぶことはできません。英語をビジネスの共通語とするグローバル経済では、就職面でも大きく不利となります。これは個人だけではなく、国としても深刻な問題だと言えます。

—— 4技能試験導入のウォッシュバック効果(テストや評価の仕組みが、学習の実践に影響を与えること)について教えてください。

学校の一教科として言語を扱うと、勉強して、テストして、そして忘れてしまうことになりがちです。この点では、多くの国の教育システムが学習者の期待に応えられていません。

「読む」は翻訳に過ぎず、「聞く」はゲームのようなもの、と捉えるのは残念です。学習者の多くが、リアリティのない設定に放り込まれて、実際の能力が発揮されることのない課題に答えようとしている状況です。言語は本来コミュニケーションのツールとして学習され、使用されるべきものです。そうして初めて学習者は文化的・認知的なレベルで大きな利益を得ることができるのです。

今まで、テスト対策として「読む」「聞く」により注力してきたことで、多くの学習者が、何年間も勉強した言語をほとんど使えないまま、中学・高校を卒業しています。その結果、企業はグローバル人材の確保に苦労し、多くの国、特に日本(だけではありませんが)の経済に支障が生じているのではと思います。その意味で、ウォッシュバックは、個人への影響と社会への影響という2つの側面から捉えることができます。

——日本の英語教育改革を進めるためには、どうしたらよいでしょうか? テストを変える以外に、教育の質を高めるために必要なことは何でしょうか?

教育改革には、長期的な視野が必要です。途中で何かしら効果が現れるとしても、改革が完了するまでに一世代はかかると考えるべきでしょう。その改革を成功させるために重要なのは次の3つです。「国のカリキュラム(または学習指導要領)」「システムの提供(教員の研修とモニタリング、教科書とオンライン教材、学習環境の整備)」「評価(授業中の評価と正式なテスト)」。これを「総合学習システム」と呼び、すべてが合わさった時、期待される変化が起こると考えています。

変化を起こすためには政策立案者がこれを十分に理解し、「新たな目標に向けて教員自身が指導の準備を整える」「出版社がその目標を反映した教科書開発に取り組む」「4技能中心のテスト改革を実施する」といった、多岐にわたる取り組みを視野に入れることが重要です。こうした改革は、一足飛びには実現しません。しかし、先例であるスペインのように、適切に実施すれば、時間とともに明らかな改善が期待できることは実証済みです。

 

バリー・オサリヴァン
80年代、アイルランドでの教師生活のなかで言語評価に関心を持ち、英語教育の修士号を取得。英国レディング大学で語学テスティングの博士号を取得後、1990年から8年間、岡山大学で教鞭をとる。レディング大学勤務を経て、2008年ロンドンの国立ローハンプトン大学の教授に就任。2012年 ブリティッシュ・カウンシル英国本部で評価研究グループ部門に着任、部門長として現在に至る。UKALTA(英国語学評価テスト学会)の創設者であり、2016年英国社会科学アカデミーフェロー、2017年AALA(アジア語学評価協会)フェロー就任。日本、アジア各国の語学教育評価に精通する。 Order of the British Empire (OBE 大英帝国勲章)受賞。