大学入試の英語4技能の導入にはポジティブな効果が期待されますが、「評価の信頼性」をどう担保するかが重要な課題となっています。英国ベッドフォードシャー大学 言語学習評価研究センターの准教授で、英国応用言語学会の試験・評価支部の会長を務める中津原文代氏に具体策を聞きました。
——大学入試への英語4技能試験導入に関して、ポジティブなウォッシュバック効果*として何が期待できますか?
Arthur Hughes氏の2003年の著書『Testing for Language Teachers』の56ページに、次のような記載があります。
「有益なウォッシュバック効果を生むテストを導入するのには時間もお金もかかります。しかし、そんなコストにかける余裕がないと結論づける前に、有益なウォッシュバック効果を生むテストを導入しない場合のコストはどうなるか、自問してみてください。有益なウォッシュバック効果を生むテストの導入コストと、そのテストがないために教師と生徒が本来の学習目標を達成するのに不適切な活動を行っていることによる労力と時間の浪費を比較すると、有益なウォッシュバック効果を生むテストを導入しないままでいる余裕なんてない、と判断するのではないでしょうか」(中津原訳)
私は20年程前にこの本に出会い、中学・高校の試験の成績は良かったはずなのに、当時の学習指導要領が目指していた「実践的コミュニケーション能力」を身に着けられなかった自分と重なりました。本来の教育目標を達成するようなテストの重要性を痛感し、言語テストの研究者になることを決めました。
良いテストの導入が、ポジティブなウォッシュバック効果に必ずしも直接つながるとは限らない、ということは研究で分かってきていますが、英語4技能試験導入によって、ある程度のポジティブなウォッシュバック効果が期待できるのは確かです。大学受験に向けて、高校生が英語のスピーキング・ライティング学習に注ぐ意欲や時間、また、教員がそれらのスキルを教えるために費やす努力や時間は、確実に変わるでしょう。英語を話す力や書く力の向上に必要なのは、教員への適切な研修や支援です。それこそが「期待」への鍵となるでしょう。
註 *テストや評価の「仕組み」が、学習の実践に影響を与えること
——英語4技能試験の信頼性を担保するためには何が重要ですか?
スピーキングとライティングのテストについて述べますと、以下のことが重要だと考えます。
- 対象学習者の言語分析のエビデンスに基づいた評価基準の制定
- 評価官に向けたトレーニングおよび認証試験の定期的な実施
- パフォーマンスに対して評価官2人の個別評価システム(点数差が大きい場合は3人目の評価で最終決定)
- 多層ラッシュモデル分析の統計を用いた、採点結果の調整(大規模試験では実用的でない場合もある)
- 評価官のパフォーマンスのモニター(信頼度低下の場合、トレーニング・認証試験の再受験後まで不採用とする)
- 要望に応じて、採点のやり直し・再評価が可能なシステムづくり
——IELTSのような英語の運用能力を評価する試験は、日本人の英語学習者にとってどのような役割を果たすと思われますか?
英語を話す能力・書く能力を正確に測るためには、その能力を使う場面となるべく同じ環境・条件でテストの課題を設定することが重要です。また、対象の能力と評価基準が合致していることも不可欠です。
英語の運用能力を向上させたい学習者にとって、IELTSのようなテストは、「自分がどのくらい目標に近づいているのか」「どこが弱点でどういう学習がこれから必要なのか」を知るツールとなります。また、IELTSは、英国やオーストラリアといった英語圏の大学への留学条件でもあるため、試験の結果によっては将来の可能性が広がるでしょう。