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Jimmy Cohrssen courtsey of Jason Bruges Studio

日本の禅庭にインスピレーションを受けたロボティック・アート

アスリートの動きをAIで解析して生み出されたパターンを、産業用ロボットが砂の上に描く屋外インスタレーション「ザ・コンスタント・ガーデナーズ」が、東京の上野恩賜公園(以下、上野公園)に登場しました(2021年7月28日から9月5日まで公開)。Tokyo Tokyo Festival スペシャル13の参加企画である本作は、日本の伝統である禅庭とそこに描かれる砂紋にインスピレーションを受けています。最先端のテクノロジーとアートを融合させた作品を展開する英国のアーティスト、ジェイソン・ブルージュが率いるジェイソン・ブルージュ・スタジオが手掛けました。

まず目を引くのが、その大きなキャンバスです。14トンの黒い玄武岩と、4トンのシルバーグレーの花崗岩で構成された砂利を、禅庭さながらに敷き詰めた様子は圧巻。その上に、4台の産業用ロボットアームが150以上に及ぶ砂紋のパターンを描き出します。

ジェイソン・ブルージュは次のように語ります。

「私達は長年にわたって事物の動きを分析し、作品化してきました。今回、このロボットアームは、AIの動画解析を用いてさまざまな種目のアスリートの動きを抽出し、トレースしています。唐突な例えに思えるかもしれませんが、まさに、自然から多様な動きを取り出し、禅寺の砂紋に落とし込んでいく作庭家のような存在だと言えるでしょう」

 池を中心とした日本庭園の様式と異なり、水をつかわずに山水の風景を表現する枯山水。このプロジェクトは、枯山水の直線や円で構成される作庭手法、そして熊手が引く線の動きに、インスピレーションを受けました。同スタジオのシニアデザイナー、アダム・ウェイディーは次のように続けます。

 「アスリートが国際大会に出場するまでには、何ヶ月も何年も同じ動きを繰り返し、完璧にしなければなりません。その行為は無心であり、瞑想的ですらあります。最終的な動きがどのようなプロセスを経て起こるかが重要なのです」

AIを活用し、アスリートの動きを解析

本作では、スプリンター、サイクリスト、体操選手、スケートボーダーなど、アスリートの動きを分析し、約150にも及ぶ作図パターンがプログラムされています。さまざまな角度から競技を撮影した膨大な動画情報から適切なデータを選び出し、アスリートの骨格や関節の動きをAIのポーズ認識により検出。数秒のうちに起こる運動の流れが描き出されています。

 「庭師(ガーデナー)」となるのは、自動車の生産工場で使われていた4台の産業用ロボット。アダムによると、ロボットアームの所作にはそのときどきで異なる「個性」が現れるといいます。

 「描かれるラインを観察すると、ときには自信なさげで弱々しく、あるときは確信に満ち、整然として大胆に線が引かれています。まるで、ロボットに個性があるように感じられるのです」

 

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Jason Bruges Studio

ゆか体操の選手が宙返りをしている時の動きを解析したもの ©

Jason Bruges Studio

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Jason Bruges Studio

動きと時間のタペストリー

ジェイソン・ブルージュ・スタジオは、英国の主要な文化機関とプロジェクトを協働するほか、アート、建築、テクノロジー、インタラクティブデザインなどさまざまな分野で国際的な存在感を発揮しています。  2017 年には、英国文化都市に選ばれたハル市で開催された大規模なアートの祭典「Hull UK City of Culture」の主要企画として、21台の産業用ロボットを使用したアートインスタレーション、「Where Do We Go From Here?」を発表しました。

「ザ・コンスタント・ガーデナーズ」の 会場となるのは上野公園。東京藝術大学や、国立西洋美術館に囲まれ、多くの重要文化財を要する東京国立博物館の正面に設置されました。

「このプロジェクトの初期段階では、まさにそうした文化財をリサーチし、なかでも絵巻物やタペストリーを参照しました。ロボットアームが描く砂のキャンバスは2.5メートル幅ですが、このサイズはアスリートの動きを伝えるという点で最適だと判断しました。ロボットの動く範囲は左右に好きなだけ進むことができます。つまり、概念的には、絵巻物のようにどこまでも長さを伸ばしていけるのです」

都市のランドスケープ――公共空間と庭

データ、テクノロジー、そして自然を融合させてきたジェイソン・ブルージュ・スタジオ。作品がどう都市の風景、そして人々の生活と関係していくのかは、彼らにとって重要なコンセプトの一つです。散歩、読書、日々の運動などそれぞれの理由で上野公園を訪れる人々に、この作品はどのように映るのでしょうか。

ジェイソンは期待を込めて次のように語ります。

「ロボットアームが描くパターンが何を指し示すのか、それははっきりと知覚できるものではないかもしれません。その意味で、この作品の鑑賞は雲を見ているようなものだとも言えますね。謎めいたイメージに遭遇したとき、人はその形を自分が知っている記憶の情報に無意識にあてはめます。パレイドリア現象と言われるものです。みなさんには、それぞれの解釈を自由に楽しんでもらえればと思います」

見慣れた広場の光景に忽然と現れた、最先端の技術を取り入れたインスタレーション。新たなアスリートの動きが常に読み込まれ、期間中も新たなパターンが生成されます。庭園を散策して作庭家の技法や四季折々の変化を楽しむように、上野公園の訪問者も伝統と未来をつなぐこの作品を味わうことができるでしょう。

展示概要 

日時:2021年7月28日(水)~2021年9月5日(日)
会場:上野恩賜公園竹の台広場 (東京都台東区上野公園池之端三丁目)
入場料:無料
開場時間:11:00~18:00
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
特別協力:ブリティッシュ・カウンシル
⇒実施概要・参加方法はこちらのページをご覧ください。

 

 

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