RENKEI PAX ワークショップ:精神の解放:歴史、政治と遺産
現代社会にも深く関わる歴史的不公正というトラウマに、記念や追悼といったプロセスによって、また研究を通じてどのように対処するか?
チャレンジ
第一回目のPAXワークショップは核戦争に焦点を当てたが、今回は奴隷制を取り上げた。主なテーマは、歴史、政治及び遺産の関係性である。課題となったのは、個々の専門分野を越えて、記念や追悼、歴史的トラウマと和解の間のつながりを探求することであった。奴隷制と人種問題に関わる現代の議論は、戦争や紛争にかかる議論と同様に、過去の政治的闘争を含む争いを認識し再考する必要性を示すが、それは単に「教訓を学ぶ」だけのものであってはならないことを思い起こさせる。
米国の内戦記念碑や英国の有名な奴隷商人(例:エドワード・コルストン)を政治問題化すること、戦時に起こした惨事に対する国家レベルの謝罪や賠償に関して今もなお議論が続いていることは、過去が現在に直接的に影響を与え続けることを示唆している。こうした問題を研究することがいかに困難であるかは、パブリック・ヒストリーをめぐる議論により実証されている。大学や博物館は、社会に対して知識と情報を提供することを通して、より確かな情報に基づいた議論を促すことができる。また、過去の問題を探究し、現在とどのように結びついているかを調査することができる。しかし、まさにこれらの機関は多くの圧力に直面している。きわめて政治的な国家的議論やポピュリズムの台頭により、当該機関の役割(および機関間の関係)は一層重要になっている。集団記憶喪失を回避し、過去を記憶し同じ過ちを繰り返さないようにするために。
目的
当ワークショップの目的は、公的な記憶に対する異なるアプローチと視点を検証することにあった。特に、今日においても学術界および世界中で公に議論されることが多い課題、奴隷制に焦点を当てた。
ワークショップは奴隷制だけではなく、前回のPAXワークショップとのつながりも重視した。テーマは、奴隷制に向き合う努力だけでなく、派閥主義、植民地主義または軍事行動の結果として産み出されたあらゆる歴史的苦悩にも及んだ。
当ワークショップは主に、RENKEIメンバー大学にて関連分野の研究を行う博士課程学生および若手研究者を対象とした。
サプライチェーンの透明性に関する新しい法律が導入され、企業の反奴隷制キャンペーンが高まっていることを受け、地方や国のNGO、民間セクターなどさまざまなステークホルダー間の議論を促すことを目的として、いくつかのイベントは一般にも開放された。
プログラムの概要
ワークショップでは、さまざまな分野のスピーカーを招いた一連のセッションを中心に、課題を検証した。プログラムは奴隷制の追悼に関するプレゼンテーションから開始し、帝国の遺産、マルチメディアによる紛争と人権の表象、「ダークツーリズム」という現象、過去が「活用できる」かどうかという問い、「ゲリラ」的な記念行為などについて議論した。
プログラムの始めと終わりには公開講義を実施した。まず、アナ・ルシア・アラウジョ教授は、「奴隷の記憶、歴史、遺産:未完の過去の教訓」をテーマに講演し、続いて著名な映画監督、アマ・アサンテ氏は、映画という媒体を通じて記憶と人種差別や植民地主義に関わる歴史的不公正を扱う、という課題について論じた。
また、サルフォード、ランカスターとロンドンを訪問し、奴隷制と帝国主義に関する展示鑑賞やウォーキングツアーを行った。最後に参加者は、リバプール市内とアルバート・ドックの国際奴隷博物館で奴隷制記念日のイベントやワークショップなどの式典活動に参加した。
プログラムの成果
当ワークショップは、参加者が遺産と公的な記憶の肯定的・否定的側面、そしてそれらが現在の世界的課題解決に与える影響について、革新的かつ情報に基づいた理解を深めることを促した。
各参加者は、奴隷制に関する知識を高め、グループ活動に参加し、研究スキルやアプローチについて議論するなかで、独自の研究を深化させていった。
また参加者は、自分の研究を新しいオーディエンスに向けて説明する方法を学んだが、この知的交流は、特に日本とイギリスの若手研究者間の結び付きを通して、雇用可能性を向上させ、キャリアアップを支援することだろう。
ワークショップを通じて彼らが身に着けたスキルのひとつは、多くのセッションによるグループワークを完了するためにチームとなって働くスキルである。研究アイデアや共同プロジェクトに関する活発な議論も交わされた。
また、さまざまなオーディエンスに向けて執筆するスキルも磨かれた。ワークショップ成果のひとつとして、各参加者は短いブログを提出した。プログラムの一環として、主催者が個々の作品に関してアイデアをより効果的に提示する方法についてフィードバックと助言を提供した。
主催大学の立場からは、ワークショップは大学の国際化、リバプール大学と国際奴隷博物館の中核的関係の維持に貢献した。
主な成果は、立命館大学とリバプール大学との関係を深め、各国から経験豊富な研究者と若手研究者を一堂に集め、共通理解および共同研究を促進したことにあるといえる。
この関係は、ワークショップの最終的な成果、すなわち各参加者からの執筆作品のコレクションへと繋がっている。主催者のチームによって審査・編集された各作品をとおして、参加者は、ワークショップの経験がどのように研究プロジェクトと今後の目標に影響を及ぼしたかを振り返ることができるだろう。このコレクションは11月に公開予定。
リード大学
- リバプール大学
- 立命館大学