すべてを英語で行う"All English(量の重視)"よりも、"English Rich(質も量も大切)"な授業を!
生徒が英語コミュニケーション力(あるいは、「使える英語」)を身につけるためには、授業を「英語を使う場」にすることが大切です。基本となるのは、まず教師が授業で英語を使うことです。その時に重要なのは、教師が話す英語の量のみならず、質にも留意すること。すべてを英語で行うことを指す“All English(量を重視)”よりむしろ、“English Rich(質・量共に大切にする、豊かな英語を使うこと)”な授業を行うことです。English Richな授業では、教師とともに、生徒も英語を使い、有意義で楽しいコミュニケーション活動が活発に行われることを目指します。結果として、生徒のモチベーションだけでなく、英語力も高まるのです。
ここでは、充実したEnglish Richな授業を行うための代表的なテクニックをご紹介します。ブログ「English Richな授業とは」もあわせてご覧ください。
1. 日本語を効果的に使用する
最近の世界の英語教育の流れは、「母語を効果的に活用する」ことを重視しています。つまり、「効果的だ」と判断される時には、教師も生徒も日本語を使用する方がよいということ。しかし日本では、授業以外に英語に触れる機会は限られるため、「不必要」に日本語を使っていないかを常に点検します。授業のねらい、抽象的な語いや文法の説明などの説明や、生徒が考えを整理する時は日本語の方がよいでしょう。「いかなる時も英語」と「日本語が効果的」とのバランスをとります。
2. 教師の英語を生徒の理解に合わせる(Grading)
生徒の理解に合わせて、教師が使う英語を選択したり調節したりすることをGradingと言います。生徒のレベルにあった語いや表現、適切なスピードで話すことが大切です。授業で英語を進めると、生徒の集中力やリスニング力の向上にも役立ちますが、生徒が理解できることが必須です。理解できない音声を聞かされてもあまり意味はありません。逆に、スピードがゆっくり過ぎたり、簡単すぎるのもよくありません。生徒が理解できる英語を使うと、「先生のようになれる」という目標にもなります。
3. 段階を追った明瞭で簡潔な指示をする(Staged Instructions)
これは言語活動の手順を説明する際、簡潔で必要なことだけを、わかりやすく、全員が理解できるようなテクニックです。わかりやすい説明や指示をすることは、すべての教師にとって必要なスキルのひとつ。これは簡単に見えて、実は熟練が必要なスキルで、慣れるまではつい冗長で複雑な説明になりがち。例えば、「第1に~をして、第2に~をして」というように、わかりやすく簡潔で、段階に分けて、必要なことだけを言うようにします。授業前に一度リハーサルをすることをお勧めします。
4. 理解度を確認するための質問(Instruction Checking Questions)
教師が英語で行った指示を、生徒が理解できたかどうかを確認するにはどうしたら良いでしょうか。この場合は、Instruction Checking Questions (ICQs) というテクニックが効果的です。ICQsは指示や説明の後に、ポイントを絞った簡潔な質問(What’s the first ~? How many? など)を行って、重要点を確認していく手法です。説明や指示の後、”Do you understand?”と聞くことがありますが、これでは生徒の理解度は把握できません。ICQsを使う教師からは「英語を使い続けることができるし、授業が驚くほどスムーズに進む」という感想をよく聞きます。
5. 状況や場面の設定
言語活動を行う際に、どのような場面や状況、目的であるのかを明確に設定します。コミュニケーションをする時には必ず話し手・書き手がいて、聞き手・読み手に対して伝えたいことがあります。その場面や状況等を設定することで、状況に即した言い方や意味を明確に示すことができ、相手に情報や意見が的確に伝わります。この時に、「ジャンル」を常に念頭におき、新聞・メール・意見文・広告等を取り上げ、特徴を踏まえていくと、実際の場面でどんな風に使うとよいかがわかります。
6. 自分ごと化・自己関連性
自分の考えや気持ちなどを表現する活動の時には、題材を生徒の生活や経験に関連づける工夫が必要です。例えば、スポーツがテーマであれば、生徒が好きなスポーツや観戦するスポーツなどについてやり取りをするタスクを設定します。生徒が選択する、好みを言う、想像力を使う等のちょっとした工夫をすることで、言語を学習者に関連付けることができ、コミュニケーション活動が意義あるものになります。そして、長期記憶に残りやすくなります。
7. インフォメーション・ギャップ
インフォメーション・ギャップとは、自分とコミュニケーションをとる相手との間にある「何か知らないこと」を指します。一方が知っていて他方が知らないという情報の差があると、コミュニケーションを行う必然性が生まれ、インフォメーション・ギャップのある活動は、新しい発見があり、より興味深く、モチベーションが高まるものになります。すでに身近にある、他者との日々の経験や興味関心の違いに焦点を当てたり、お互いが異なる情報を持つタスクを設定します。インフォメーション・ギャップがあれば、目的と意味を持ってコミュニケーション活動を展開できます。