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StoryTrails

AR・VRで街の歴史を追体験する

『StoryTrails』は、AR(拡張現実)とVR(仮想現実)を活用し、英国の15の街を舞台にした物語を追体験する没入型インタラクションです。物語のはじまりは、それぞれの街のコミュニティにある“図書館”。参加者は、3Dの立体地図を手掛かりに、ARアプリに導かれながら各所に設置されたストーリーポイントを訪ね回ります。BBC(英国放送協会)やBFI(英国映画協会)が所有する街のアーカイブ映像と音声にも触れながら、その地域で語られなかった歴史を見つけていきます。

英国の才能が集結

この作品を主導するのは、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校と英国の国立映画テレビ学校(NFTS)が運営する国立機関『StoryFutures Academy』。エグゼクティブプロデューサーは、歴史家であり映画製作者でもあるマンチェスター大学のデイビッド・オルソガ(David Olusoga)氏が務めています。

「『StoryTrails』は、英国最大の没入型ストーリーテリング・プロジェクト。ARやVRの技術によって、行ったことのない場所の、語られることのなかったストーリーを体験できます」(オルソガ氏)

この作品で体験できるストーリーは、「障害のある人を支援する機器や技術の歴史」「英国の養子縁組における物語」「50年後の未来予測」「自転車をめぐる時間の旅」などさまざま。オルソガ氏は、「地域のコミュニティについて考え、私たちが共有する空間の物語を深く知る良い機会となるはずです」と、作品への自信をのぞかせます。「重視したのは、多様なクリエイターの参加を促し、ARやVR技術を使ったクリエイティブに専念できる環境を整えること。人材の育成も見据えていました」と語るオルソガ氏。事実、このプロジェクトには50人のクリエイターが集まり、それぞれの才能を存分に作品世界に昇華させていきました。

この記事では、作品づくりに参加したクリエイティブの一人、DJ マックドウォル氏(DJ McDowall)にインタビューを敢行。プロジェクト参加後の想いについて語っていただきました。

ストーリーテリングの未来

『StoryTrails』の制作スタッフとして参加し、没入型テクノロジーのスキルを習得した50人のクリエイターのひとり、DJ マックドウォル氏。プロジェクトを通して得たスキルは、どのようにして“コミュニティ”の可能性を広げているのでしょうか。

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これまで30年にわたり、クリエイティブを生かしたコミュニティ活性の領域で、実務的なコンサルに従事してきました。革新的でインパクトのある、草の根的な活動です。スコットランドのダンフリースで生まれ育ち、美術大学で写真を学んだ後、ダンフリース・アンド・ギャロウェイ市議会に20年間勤務しました。そこでは、音楽イベントや映画、没入型演劇を通してコミュニティが抱える問題について考える、若者向けのプロジェクトの推進を担当していました。懸命に仕事に取り組んでいたのですが、一方で何かが足りないと感じることがあったんです。背景には、共通の糸でつながった問題がありました。それは、高い自殺率や10代の妊娠率、精神衛生状態の悪化など、地域の若者たちが抱える問題です。長年にわたって考えた末、自分のなかで、“帰属意識”こそがそうした問題の解決につながるとの結論に至りました。地域のメンタルヘルスに関する問題の原因や、その状況を悪化させる要因について新たな研究結果が発表されたことが転機となったのです。

こうして、私の作品の中心となるべきテーマが決まりました。作品には没入感が必要だと悟ったため、その実現に向けて動いていたのですが、同時に、地域の人々の“帰属意識”を高めるにはその地域の“ヘリテージ(遺産)”との融合が効果的だと考えるようになりました。そこで立ち上げたのが、『Hidden Histories of Dumfries & Galloway』(ダンフリース・アンド・ギャロウェイの知られざる歴史)です。このプロジェクトは、没入型の物語手法とインタラクティブな教育ツールを用いて、人々がまさにいる「その場所」で歴史を再現するというもの。例えば、歴史上の人物からかつての日常に関する話を聞く、さまざまな文化に触れて伝統の技を知るといったプログラムを展開するのですが、そうした体験が地域との結びつきを強めていることがわかってきました。

以降、そうした活動が私のすべてになりました。一定の成功はおさめましたが、一方でまだまだ行けるとも感じていました。このプロジェクトにVRやARを取り入れれば、さらに次のレベルに到達するはずだ、そんな考えが胸に去来したのです。しかし、そこに至る方法については私もチームもまさに手探り状態で、何を調べても高くて手が出せないという状況でした。

そうしたなか、『StoryTrails』と『StoryFutures Academy』の活動を知り、夢が叶ったような気がしました。彼らが計画していることのすべてが、私が実現したいことと重なっていたのです。デビッド・オルソガ氏とBFIが関わっていることもわかり、これこそ私が求めていたものだと思いました。

オンラインと英国内の15の図書館を拠点に展開される『StoryTrails』は、ARとVRを通して、人々が自分の街やコミュニティをイマーシブな方法で体験できるように設計されています。私自身はこのプロジェクトを通して、没入型技術を駆使するパイオニアから多くのことを学びました。3Dスキャンやデジタル3D上のデザインから、ゲームの構成、ARやVR、ユーザーのインターフェースまで多岐にわたります。プロジェクトに参加したのは、テレビや映画、没入型シアター、ゲーム、拡張現実の世界におけるイノベーションの先駆者であり、トップレベルの企業ばかりでした。

作品づくりは、英国の没入型ストーリーテリングのナショナルセンター『StoryFutures Academy』で無料のトレーニングを受けたうえで、『Nexus Studios』やポケモンGOの開発元である『Niantic』との共同で行いました。BFIのアーカイブに独占的にアクセスできる環境も整っていました。こうしたパートナーシップのおかげで、私の故郷であるダンフリース地方の知られざる歴史の紹介が実現したのです。

プロジェクトで利用した技術はまさに最先端のもので、“共通言語”が存在しません。さまざまなツールやコンセプトが飛び交い、融合しているため、常に新しい用語が発生していきます。また、“不具合”も歓迎していました。私にとっては、不具合こそが最前線で仕事をしている証だったからです。新たに湧いて出た問題をその場で解決していくのは、とてもワクワクする体験でした。

私は、『StoryTrails』がこれからのストーリーテリングやドキュメンタリーの見本になると、心から信じています。この技術が発展し、コンテクスチュアルなストーリーテリングが進化・成熟するにつれ、人々の“帰属意識”を高めるストーリーの方法論も生まれていくでしょう。今は、『StoryTrails』のような作品を地元のコミュニティと一緒につくるためにはどうすればよいか、その方法を考えています。『StoryTrails』で学んだことは、ここダンフリース・アンド・ギャロウェイでも活用できるものです。地域のヘリテージ(遺産)や観光セクターを強化するうえでも有効でしょう。こうした技術を、クリエイティブや文化遺産の分野でより多くの人が利用できるようになるといいですね。そうすることで、地域社会が新たな方法で自らの物語を語り、自らが住む場所への帰属意識をさらに強く持てるようになると思います。

日本からプログラムを楽しむ方法

日本からも、オンラインでプログラムを楽しめる方法を紹介します。

  • StoryTrails プロジェクトサイト(英語)
    『StoryTrails』のイメージ映像や最新の情報をご覧いただけます。
  • UNBOXED YouTube 公式アカウント内 『UNBOXED:StoryTrails』(英語)
    『StoryTrails』のプレゼンテーション動画をご覧いただけます。

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