サーフェス・エリア・ダンス・シアターの芸術監督であり、さまざまな社会問題をパフォーマンスで表現するニコル・ビビアン・ワトソン。現在は日本学を研究し、滞在中には鈴鹿市で聴覚障害のある人たちとダンスのワークショップも行いました。レジデンス終盤、伊勢での二週間の体験について話を聞きました。

地元の聴覚障害のある人たちとのワークショップは、とても幸せな時間だった

振付家、パフォーマーであり、英国北東部のニューカッスル・アポン・タインにあるサーフェス・エリア・ダンス・シアターの芸術監督を務めています。手話を通して聴覚障害のある人々とワークショップを行っています。また現在、ロンドン大学アジア・アフリカ学院で日本学の研究をしています。2007年に初めて日本を訪れ、以来、日本社会と文化にずっと関心を持っています。今回で6度目の来日ですが、伊勢には初めての訪問です。これまで学んだ日本文化をより深く研究する機会だと思って参加しました。

伊勢での体験は総体的かつ有益な情報に溢れて、とても刺激的でした。外部者が伊勢を知るにはまず観察から始めます。しかしこのプログラムがコミュニティの中へ迎え入れてくれたので、外側から眺めるのではなく、時間をともにし、お互いに学び合う経験ができました。アートの世界だけにとどまらない交流ができたことはとても重要だったと思います。

伊勢でぜひやりたいと思っていたことに、地元の聴覚障害のある人たちとのワークショップがありました。それがやはり今回の訪問のハイライトです。「みえデフドラゴン」というダンスチームの5歳から40歳代までの多様なメンバーが参加して、約2時間のワークショップを行いました。笑顔が絶えない、とても幸せな時間を過ごすことができました。

通常こうしたレジデンスでは、まず自国の文化と比較し、相違点からその文化を探っていくのですが、伊勢に来てすぐにここは未知の世界だと感じました。伊勢の中心には数千年にわたり信仰されている伊勢神宮があります。この揺るぎない存在が、はじめは負担になるかもしれないと思いましたが、ワークショップやセッションを通して、次第に神宮の存在が身近になり、この街と神宮の調和を感じられるようになりました。

伊勢神宮のさまざまな行事が、伊勢の人々の日常の暮らしに取り込まれ、すっかり調和していることにも驚きました。たくさんの人々と出会い言葉を交わし、伊勢の精神により近づけたような気がします。式年遷宮についてはまだまだ知りたいことがあります。遷宮の際、社殿だけでなく細部まですべてつくり変える徹底さ、また新旧が左右対称の配置に現れていることも印象的で、英国に帰ってからも研究したいと思います。

次の私の課題は、この素晴らしい経験を、自国のダンサーやミュージシャン、舞台デザイナーに伝えることです。まずは神宮の左右対称の配置、式年遷宮の慣習とそれにまつわるさまざまな行事、伊勢神宮と伊勢コミュニティ全体のつながりと人々がどのような役割を担っているかを伝えたいと思います。伊勢神宮の美が、職人やコミュニティの力によって守られている様子は、とても感動的に映りました。

ある文化を知ろうとしたら、テレビやインターネットなどからある程度の知識を得て想像することはできます。こうしたレジデンスは、知識や知見を得るだけでなく、ある種の自信を与えてくれるものです。初めて日本に来たのは2007年でしたが、今回の経験を経て、私はより確かな手応えを得ることができました。私の発見と理解は、伊勢の文化に深く浸り、伊勢の温かなコミュニティに根ざしたものです。それは私の自信としてこれからも長く残ります。

私たちはグループで個別の旅をする仲間でした。伊勢にいる間、多くの気づきがありましたが、一緒にいることで得られた発見もあると思います。英国に戻ってからも、誰ひとり伊勢での体験をすっかり忘れて切り替えることはできないでしょう。ここで体験したもの、出会った人々やコミュニティ、神道、すべてを理解するにはとても長い時間がかかるでしょう。

神社で奉納された酒樽を眺める女性
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 Ise City, British Council Photo by Anne Siegel

プロフィール:ニコル・ビビアン・ワトソン(Nicole Vivien Watson)

サーフェス・エリア・ダンス・シアターの芸術監督。12年以上にわたり躍動感にあふれ、社会問題への取り組みをパフォーマンスで表現する作品を生み出してきた。現在は、日本学での修士号取得を目指し、ロンドン大学アジア・アフリカ学院で研究を進めている。

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