生徒の英語力が高まるAI活用に向けて、現状や課題を踏まえ、不易流行の観点から整理をしてみました。

世界で進むAI活用

世界各地でAI活用が進む中、ブリティッシュ・カウンシルは「AIと英語教育」をテーマに調査研究 を実施しました。世界のAI活用の実践について恐らく最初の系統的レビューであり、実践家や専門家の意見も踏まえて、現状や可能性、課題などについて整理しています。

この調査研究にあるように、世界でも、AIアプリをスピーキングの発音や英会話練習に使うのはよく見られるようです。アプリが設定するやり取りを通して、語彙力の向上や、イントネーションや流暢さの改善に役立った、ライティングでは翻訳や文法チェック等のツールを使うことで、語彙や表現力が向上したという報告が、台湾やトルコ、韓国等から上がっています。AIの進展は目覚ましく、さらに精度や機能が向上したアプリが出てくるでしょう。また、評価においてもAI活用は高く期待できます。

AIが使う学習法の偏り

課題としては、アプリによって成果が異なる、小規模な研究が多い、ツールや教材等の目新しさが学習者の関心を引き、一時的に効果が高まる「新奇性効果」を考慮したかが不明、(高等教育に比べ)学校教育段階での研究数が少ない等があげられました。

興味深いのは、AIが用いる学習方法に対する分析です。近年は学習科学が進展し、長期記憶の定着に効果的な指導・学習方法が明らかになっています。しかしAIアプリは、講義や説明という伝統的な学習方法に偏っていると指摘されました。学習者が受け取る情報量が多すぎる(認知負荷が高い)と、記憶への定着がしにくくなります。ほかにも、信ぴょう性(誤情報)や個人情報保護などの課題もあります。

英国での生成AIに対する関心

英国でも、生成AIの活用に関する実証研究(注1)が精力的に行われています。英国教育省が重視するのは、安全性や効果は当然のことながら、指導とAIの連動です。信頼性のある科学的根拠によると、教師が生徒に与える「フィードバック」は学習成果を高める上で効果的な手法です。英国教育省もこの分野での生成AI活用に関心が高いようです。

加えて、不利な立場にいる生徒や特別支援が必要な学習者への対応も優先課題です。英国は教育実践において、実証性が担保された科学的アプローチを推奨しており、学校や教師には日々の実践を検討するための判断材料が多く提供されています。生成AIにおいても、より教師が使いやすく効果が担保されたアプローチを特定すべく、研究が進行中です(注3)。

AIをよりよく使うには

どんな分野においても、AIをうまく使いこなせるかどうかのカギは、「AIに任せたいタスクを自分でできるかどうか」です。そもそもAIは「依頼」があってはじめて成り立つもの。自分でやってできることをより効率よく進めるためにはAIは非常に有効です。しかし、自らアウトプットできない作業については、AIが出した答えが合っているかどうか不明です。つまり使い手が、AIに任せたいタスクの手順を「言語化」できているかどうかが重要です。

AI時代の「不易」:指導スキル

英語教師の場合は、言語活動を実演することができ、その指導ノウハウを他者に説明できること。教室で児童生徒に合わせて提供する様々な支援(足場かけ)を、いつ、どんな状況で、どういうタイミングで提供するかを段階的に具体的に表現できることです。

このような場合、「なぜ」と「どのように」が会得できており、授業の場面ごとに、背景や原因を深く理解した上で、指導のプロセスや流れを構造的に捉えることが可能です。そのため生徒に合わせて、多様なアプローチを掘り下げて具体的な方法で使い分けることもできます。この確かな指導力はAI活用の有無に限らず、不易なものです。

研修後に、授業中の英語使用量が大幅増

足場かけが十分に細分化された指導法を使うと、授業は大きく変わります。例えば、足場かけを扱った研修前後では、「授業中に教師が発話の半分以上を英語で行っている」という教師が55.8%から70.5%と大きく増加、「生徒のスピーキング活動が活発になった!」「授業が変わった」という声が多く届きました(注2)。

単に「ていねいにする」「時間をかける」だけでなく、根拠がしっかりした指導は再現性が高く、生徒の力を各段に引き出せます。このような指導ができる教師は英語上達のポイントを深く理解しているため、AIという革新的なツールの使いどころを見極めることができます。AI時代の不易流行とは、確かな指導力が基盤にあり、AIと教師の使い分けや相乗効果を高めることができる指導です。

新たな格差を生まない

AIは学習や指導を伸長するためには大きな可能性を秘めた支援装置です。しかし、機会を得て伸びていく生徒がいる一方、それに取り残される生徒を生み、学力格差拡大につながる懸念もあります。一人ひとりの学習意欲や学習習慣、家庭環境等に左右されることなく、すべての生徒の学びを高めることは教育の最優先です。AIは、学習や指導そのものを肩代わりしてくれるわけではありません。

生徒の英語力が高まるAI活用とは、「どのアプリを使うか」ではなく、何のために、いつ、どんな機能を、どんな場面で、どうやって、どの程度使うか等を判断し、教師の指導と連動させること。教師にとってもAI活用は新しい分野。AIをよりよく使うための環境整備や指導力をアップデートする研修充実が急がれます。

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  • 注1 Generative AI in education Educator and expert views (2024年1月) 学校教育における生成AI活用について、教師・教育関係者や専門家・EdTech開発者へのインタビュー、様々な定量的データ、学術文献を元に考察。英国教育省実施。
  • 注2 Education Endowment Foundation は、調査研究から得られた多岐に渡る客観的根拠を学校や教師が利用しやすい形で情報提供を行う英国の公益団体。2024年12月には理科でChatGPTの活用報告が出されました。
  • 注3 全国の英語教員対象 「教師の英語力・指導力向上のための実践的オンライン研修」からの第一次報告(令和6年度文部科学省委託事業. OTE)。高校受講者に対する同じ質問では、6月38.8%が、9月に50.1%と変化。 

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