「スピーキングの力をつけたい」とは多くの人が思うこと。英語でコミュニケーションをとる多くの場面では、スピーキングがつきものです。一方、日本人はスピーキングが苦手だとよく言われます。でも、それは本当のことでしょうか? 学校教育で教師がどう指導すればいいかに焦点をあてて考えていきます。

なぜ苦手なのか?

日本人は話すことが苦手だとよく言われてきました。そこにはいろいろな理由があげられます。例えば、入試が2技能(リスニングとリーディング)中心で、授業でスピーキング活動があまり重視されないということ。また、日本人の内向的な性格や、日常で英語を使う機会があまりないこと、日本語と英語の言語構造の違いなど、様々なことが言われています。

スピーキング力を証明するデータはある?

しかし、日本人は本当にスピーキングが苦手なのでしょうか? 実は、これを証明する客観的なデータはありません。国際比較でよく引用されるデータは、受験者層が限定されていたり、試験内容が特定の目的や技能に限られるものが多いため、一概に「日本人はスピーキングが苦手」と結論付けるのは早計です。

OECD(経済協力開発機構)は、2025年に実施されるPISA(国際学力到達度調査)に、外国語(英語)の科目を追加すると発表しました。PISAは世界中の15歳が対象で、リーディングのほかにリスニングやスピーキングの能力が調査されます。そのため、日本がこの調査に参加すれば、近い将来、15歳についての客観的なデータが得られるでしょう。そうしたら、日本人のスピーキング力に対する評価は一変するかもしれません。しかし、それまでは憶測で考えるしかありません。

 「話せるようになりたい」

ここで、英語に対する意欲や関心をみてみましょう。中高生に対する調査などで、「英語ができたらやってみたいこと」を尋ねると、話す力を使うことが上位にきます。その内容を詳しく見ていくと、「外国人と話しをしたい」「仕事で役に立つ」「旅行で使いたい」など、相手と会話をする場面が多くあげられます。同様に、多くの大学生も「社会では英語が必要だ」と考えています。若者たちの「話せるようになりたい」という意欲は高いのではないでしょうか。

一方で、教師に対する調査では、「スピーキングの指導に自信がない、不安や課題を感じている」という声が多く寄せられます。

英語でコミュニケーションをとる時、「その場で」自分の気持ちや意見を伝える場面が多くでてきます。「その場」で伝えるとは、特別に事前準備をしなくても、即興で表現できるということ。つまり、自分で瞬時に判断、発言し、相手の言葉に反応する力が求められます。この力を十分に育てるために、新学習指導要領ではスピーキングの目標が「やり取り」と「発表」に分けられました。しかし、これまでは、教師にこの目標に沿った指導法の研修機会が十分に与えられたわけではなく、教室では英語の「書き言葉」に焦点を当てた授業が多く行われてきました。

教師の悩みを解決する

スピーキング指導を行いたくても、実際の指導について悩んでいる中高の英語教師は多くいます。ここでは「やり取り」指導の具体的な悩みを紹介しながら、その解決策をみていきましょう。

教師から「スピーキング活動をやってみたが、うまくいかなかった」「生徒が話をしたがらない」という声を聞くことがあります。生徒が話せない大きな理由として、「何を言っていいかわからない」場合があります。これには、①言葉(英語)自体がわからない場合と、②内容がわからない場合に分けられます。①言葉がわからない場合は、活動に必要な表現を事前に教えることが必要です。その時、教師はどんな風に表現すればいいかのモデル(見本)を示すようにします。②話す内容(何を言っていいか)がわからない時は、内容を考える時間をとったり、身近な話題を取り上げます。

ほかにも、「相手との話が続かない」ので、すぐに会話が終わってしまう時があります。これには、やり取りの続け方を知らないことが考えられるため、フォローアップの質問や相づちの仕方を教えるとよいです。

生徒が恥ずかしがる、話したがらない時は、テーマ設定に問題がないかを確認してはどうでしょうか。言葉を知っていても話題に関心がもてないこともありますから、生徒が「自分ごと」と感じたり、相手と情報や意見をやり取りする必然性を持たせる工夫が必要です。ほかにも理由は考えられますが、それぞれどこに原因があるか、学習心理学や記憶のしくみなどの専門的な視点も含めて考えると解決策は見えてきます。

「生徒が楽しそうに話している!」

ブリティッシュ・カウンシルでは中高生の英語教員向けに「やり取り」指導の研修を行っており、前述の指導スキルの見本を示しながらご紹介しています。研修後に授業実践を重ねた教師からは、次のような声が多数寄せられます。

  • 「研修で紹介された手法を使うと、英語を苦手としている生徒もかなり意欲的に取り組んでいた」
  • 「子どもたちが相手に伝えている実感を持ちながら英語を話し、充実した表情をしていた」
  • 「帯活動でスモールトークを続けてみると、生徒に力がついてきたことがわかる」
  • 「生徒がこんなに話せるなんて知らなかった!」

ある教師は、「英語を読むのが苦手な生徒でも、スピーキングはできることがわかった」と答えました。「読めないけど聞ける」「書けなくても話せる」という生徒は一定数います。どんなことでもやってみるとできることが増え、どんどんと上達することはあるもので、それはスピーキングでも例外ではありません。そして読み書きばかりを指導していると、生徒はほかのスキルを伸ばす機会がもてません。「言えた」「通じた」という成功体験は英語の学習意欲を高め、他の技能へプラスの効果をもたらします。スピーキング活動の成果について、次のように話す教師もいます。

  • スピーキング活動を続けてきて、生徒が語順を理解するようになってきたと感じる。スピーキングでできたことを書けるようにもなってきた。以前はスピーキングをないがしろにしがちだったが、スピーキングの力はすごく大事だと感じた。

「生徒にはスピーキングは難しい」と考える教師もいるかもしれません。しかし、教師がスモールステップで効果的な指導方法を習得すれば解決できる、という見方はないでしょうか。

ブリティッシュ・カウンシルは、多くの英語教師に「効果的なスピーキング指導法」を共有し、「日本人は英語が話せない」というステレオタイプが払拭できるよう、教師たちと共に取り組みたいと考えています。

ブリティッシュ・カウンシルでは、第二言語習得や学習心理学など国内外の最新の先行研究(エビデンス)に触れながら、日本人特有の課題にも配慮し、実践的で専門的な指導スキルをご紹介しています。多くは教育委員会等の研修ページでお伝えしていますが、一部は私たちのウェブサイトの指導動画でご覧いただくこともできます。

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