大阪府茨木市では、2019年度と2021年度にブリティッシュ・カウンシルと協働で、市内中学校の全英語教員を対象とした研修を実施しました。この取り組みを通して、教員の授業改善と生徒の学力面での成果が明らかになりました。

全教員が研修を受講

2019年度は学習指導要領の改訂に先立ち、市内中学校の全英語教員を対象とした研修を実施しました。生徒たちが英語でやり取りする、教員の授業中の英語の使用量が増える、コミュニケーションの中で文法を学ぶ授業等を実現するために、教員の困り感を解消し、授業改善をどのクラスでも着実に進めることがねらいでした。2021年度にはフォローアップとして改めて全英語教員を対象にやり取りの研修を実施しました。

2019年度の研修は3回にわたり、スピーキング、発音、リスニング、ライティング、リーディング(技能統合)指導を扱い、教科書を使った言語活動を紹介。回を重ねるごとに教員の積極性が増し、指導主事による学校訪問でも、研修で紹介した指導スキルを元に授業改善が進んでいる様子が認められました。研修前後で実施した教員の意識調査では、全体的に研修成果が確認できました。

教師の変化と授業実践

新課程の実施を受け2021年度にスピーキング(やり取り)に係る研修を実施し、その際に言語活動での支援状況について調査を行いました。その結果、コロナ禍にも関わらず2019年度からの授業改善がいくつも見てとれました。「教員がモデルとなる対話を話して聞かせる」「話す内容やどのように言うかを考える時間を生徒に与える」「役立つフレーズをクラス全員で練習する」などの足場かけを提供する頻度が高まりました。また、生徒の活動を観察し「誤りを指摘し正しい言い方を教える」という、上達に向けた即興的フィードバックを与える割合が確実に増えていました。

2019年度と2021年度両方の研修を担当したブリティッシュ・カウンシルの講師も、受講中の態度から教員の理解度が深まっており、その態度の変化は授業実践の積み重ねからきていると感じました。

「もっと英語を使いたい!」

校長は教師たちの取り組みを見守り、「子どもたちのペア活動が増えた」「以前の授業より、先生からも生徒からも英語がよく聞こえるようになった」という感想を寄せています。研修後の教員の授業を受けた生徒からは、「英語で授業を受けることが苦ではなくなった」「もっと英語でしゃべりたくなった」と肯定的な感想が多く出ており、中には普段の挨拶まで英語でやり取りをするようになった生徒がいた、という声まであります。

研修を経て、教師が授業で話す英語量が各段に増えたため、「この先生には英語で話そう」という生徒も現れました。このような生徒の変化は、教師の英語の量だけでなく、質とも関係があります。生徒が理解できるように英語を調節し、効果的な指示を行う、やる気が高まるタスクを設定するなど、教員の授業が変わったことで生徒の姿が変わった例です。

研修を担当した指導主事は、学校訪問を通して次のように話しています。「2019年の研修内容がしっかりと授業実践されています。例えば、教員は視覚教材を効果的に使い、場面設定をしてからのリスニング活動、出てきたキーワードを生徒に確認させ、関連質問を英語で生徒に投げかける様子などが見られました。生徒は従来の本文指導の授業より、英語を注意深く聞いていますし、自分の経験や意見を表現する書く活動にも取り組んでいます」。

授業に活かせる教員研修で、生徒の学力が向上

こういった教員の継続的な取り組みはデータにも表れています。文部科学省の英語教育実施状況調査で、先生方の授業中の英語使用量や英語を使った言語活動の割合が確実に増えています。例えば、授業中「概ね言語活動を行っている(75%以上)」「半分以上言語活動を行っている(50~75%)」の割合が年々向上しており、半分以上の時間、言語活動を行っている(50%程度以上~)の割合は、研修前の2017年度は69.3%でしたが、研修後の2019年度は95.3%となりました。

こうした全市一丸となった取り組みは、生徒の学力を着実に伸ばしています。大阪府の中学生チャレンジテストでは、英語は同一集団での1年間の伸びが非常に顕著でした。平均得点の対府差で2020年度中1時と2021年度中2時を比べると+1.0ポイント伸びていました。近隣の教育委員会はこのような大きな変化に驚き、この変化をもたらした取り組みについて高い関心を寄せておられます。これは研修をきっかけとして先生方が昔の指導スタイルから脱却したこと、なにより先生方の継続した取り組みの賜物でしかありません。

これからも授業をアップデート

今後の課題は、全教員が学習指導要領で求められている授業を毎日実践できているかどうかに移ります。これまでの授業スタイルから脱却するために、茨木市では研修を積み重ね、授業をアップデートする取り組みを進めています。例えば、定期的に外国語教育推進担当者会や公開授業研究会を設け、モデルとなる授業の発信に努めています。全教員が、学習指導要領で求められている力を生徒につけていくための取組みを、日々進めています。