入試に「話すこと」を取り入れることについて議論がされています。その傍らで、「話すことより読むことの方が役立つ」「スピーキングより読み書きを先に勉強したほうがいい」という意見が聞かれます。そこで、聞く話すよりも、読み書きを重視する意見について、根拠を確認しながら見ていきましょう。

話せなくても、読めるようになりますか?

英語を話せなくても、読むことはできます。高校を卒業後、「英語を読むことはできても、簡単な会話ができない」という声はあちこちで聞かれます。そしてその逆、英語を読むことができなくても話すこともできます。

IELTSスコアを見ると、日本語を母語とする人はスピーキングよりもリーディングの点数の方が高い傾向にありますが、アラビア語やウルドゥー語、シンハラ語を母語とする人たちはスピーキングの点数の方が高くなっています。

日本人のスピーキングの点数が低い理由に、恥ずかしがり屋で控えめだから、という文化的な要因をあげる人もいます。しかし、日本人が英語を話すことが苦手なのは、これまでの学校での英語の授業(指導法)と関連するかもしれません。

話すことを扱わずに、読むことを教える影響は?

スピーキング活動をあまり行わずにリーディング学習をする場合、どんなマイナスの影響があるでしょうか。1つは、生徒の意欲面です。多くの中高生に英語学習で達成したいことを尋ねると、「話せるようになりたい」と答える声が非常に多く聞こえてきます。上達したい気持ちと学習成果は連動します。また、スピーキングは大人よりも、幼児期から青年期に学ぶ方が上達が早い、というのが定説です。このように上達のための好条件が揃っているにもかかわらず、学校の授業でスピーキングを扱わないことは、能力育成の点から貴重な機会を失うことになります。

それどころか、大人になってから話すことに取り組んでも、読み書きと同じレベルには追いつけないかもしれません。実際、海外駐在員のように仕事をする段階になって、話すことや聞くことに苦労したという話はよくあります。話すことと同様に、聞くことも学校教育の中では限られていました。海外駐在をするようになり、英語を読んだり書いたりすることはそれなりに自信があっても、聞くこと、特に生の会話を理解することが苦手で、誰かが英語で話している時に頭の中で一文ずつ和訳している間に、話を聞き逃してしまうという苦労話も聞きます。これは、読み書きの学習と、話す聞くの学習を切り離すと、生涯にわたって音声のスキルを習得できない可能性があることを示しています。

話す指導に時間を割くと、読む力が向上する

韓国と日本の教師からは、リーディングの時間が削られるため、授業でスピーキングの時間はとれないという声があります。日韓両国とも入試にスピーキングが含まれていないため、生徒や保護者が「重要なのはリーディング」と判断することもあります。しかし、このアプローチはリーディング力育成の観点からも、必ずしも効果があるとは言えません。

文部科学省の分析によると、例えばリーディングとリスニング、スピーキングとライティングを組み合わせるなど、技能統合型で授業を行っている学校は全国学力テスト等でより高得点の傾向にあります。また別の調査では、授業中のリーディング活動とスピーキング活動の量が同程度であると、4つの技能がバランスよく点数をとれる、という興味深い結果を伝えています。

都立日比谷高校の事例は示唆に満ちています。同校も以前は伝統的な読解中心の授業を行っていましたが、生徒達が海外研修で英語の説明を理解できない(リスニング)状況を受け、学校全体で技能統合のアプローチに転換、スピーキング活動の時間を増やしました。新しいアプローチは生徒のリーディングの点数を下げるどころか、文法読解中心の頃に比べ入試の点数が継続して上昇しています。当初は話す聞く活動を導入する影響を心配する声もありましたが、全くの杞憂だったことが証明されました。

話す聞く力に含まれている読む力

ここで確認したいことがあります。すらすら読むためには、どんなことができるといいのでしょうか。読むためには文法力や単語力、あるいは、読むイコール和訳、と判断されていないでしょうか。これを考える時、様々な下位技能(サブスキル)に注目することが必要です。

実は読解力は、言語理解と単語認識という2つから成り立っており、この2つが揃うことで、意味を理解しながらすらすらと読んでいくことができます。言語理解のためには、文法や単語力以外に、背景知識、言語を使って論理的に考える力、類推したり意味を組み立てる力などが必要です。単語認識とは、一見して単語を認識できることや音韻認識、スペルと音の関係を理解して音声化する力(デコーディング)などを指します。デコーディングができると、初めて見る単語でも、文字から音に変換(発音)したり、意味を解読できます。このように、読む力は話す力や聞く力と密接に関係しています。

これは学校での英語教育にどのような意味を持つのか?

リーディングは重要なスキルであり、特に大学においては、英語の読み書きは非常に重視されるスキルです。けれども、入試がどのような形になるにせよ、スピーキングを扱うことなくリーディング指導中心になるのは、英語力を育成する好機の喪失を意味します。吸収力が最も高い時期に一部扱わない技能があることだけでも損失ですが、「リーディング重視」のつもりでリーディングのみに重点をおく指導は、実はリーディング力を育成するにはそれほど効果的ではありません。そういった点からも、読んだことを元に書いたり話したりしながら、4技能を総合的に学ぶ機会を充実させることが英語上達の早道です。

参考文献:
IELTS, IELTS test-takers: breakdown by skill and nationality 
Hartshorne, J.K., Cognition (2018), A critical period for second language acquisition: Evidence from 2/3 million English speakers 
Allen, D. & Nagatomo, D.H. (2019). Investigating the consequential validity of TEAP: Washback to high school learners of English. Tokyo: Eiken Foundation of Japan.