伊勢市アーティスト・イン・レジデンスについて
2019年10月、三重県伊勢市とブリティッシュ・カウンシルは、英国から6組7名のアーティストを招へいし、『伊勢市アーティスト・イン・レジデンス』を実施しました。アーティストらは、約2週間にわたる滞在中、伊勢神宮をはじめとする名所を訪れ、伊勢に根付く歴史や自然観への理解を深めました。
それから3年以上を経た2023年1月、具体的な作品制作に臨むために、マシュー・ロジア、ニコル・ビビアン・ワトソン、ジェーン・アンド・ルイーズ・ウィルソンの3組4名が再び伊勢を訪れました。国内外で注目を集める3組は、改めて地域の人々と交流するなかで、多くのインスピレーションを得ました。
そのうちの1組であり、作品制作中のジェーン・アンド・ルイーズ・ウィルソンに、伊勢への想いと作品制作への影響について話を聞きました(2023年2月)。
ジェーン・アンド・ルイーズ・ウィルソンについて
1999年にインスタレーション『Gamma』でターナー賞候補となったジェーン・アンド・ルイーズ・ウィルソンは、写真や動画、映画の拡張形態でのインスタレーション作品を制作する双子のアーティスト・デュオです。ジェーン・ウィルソンはTATEの元理事で、現在はDACS(The Design and Artists Copyright Society)の理事を務めています。一方、ルイーズ・ウィルソンは、バルティック現代美術センターの元理事です。両者は、2018年に、ニューカッスル大学のファインアートの共同教授およびロイヤルアカデミー会員に任命されました。
伊勢が与えたインスピレーションと作品制作への影響
――2019年の訪問では何を感じましたか?
2019年にはじめて伊勢神宮を訪れたとき、長年にわたって守られてきた伊勢神宮の自然環境の美しさに衝撃を受けました。 気候変動に対応するため、現在、各国が二酸化炭素排出量の削減に取り組んでいます。そうしたなか、伊勢市の自然環境に触れたのは、私たちにとってとても貴重な体験でした。自然を敬い、平和的に共存するという神道の思想のもと、伊勢神宮が「幸福」と「静寂」を醸し出していると感じました。
――3年ぶりに伊勢を再訪して、どのような感想を持ちましたか?
今回は、世界的なパンデミックを経験した後での再訪です。いまだ不安が続く状況ですが、伊勢神宮を通して「人間性(Humanity)」について考えを深めたいと思いました。そして、伊勢神宮と天照大神に敬意を表し、「神聖さ」と「自然」を表現したいと考えています。
――今回の作品について教えてください。
伊勢での体験から、「人間性」を希求する映像作品のインスピレーションを得ることができました。伊勢神宮やそれを取り囲む豊かな森林、伊勢音頭の踊りなどを表現に取り入れて制作しています。参考になったのは、デレク・ジャーマン監督の『アート・オブ・ミラーズ』(1973年)です。英国を拠点とするアーティストとして、ジャーマン監督がバロック期の娯楽である「仮面劇(Masque)」(ダンスとスペクタクルの芸術形式)を取り入れたことを、伊勢を中心に日本で伝承されてきた伊勢音頭と結び付けたいと考えました。
『A Performance of Entrapment』について
ジェーン・アンド・ルイーズ・ウィルソンが手掛ける『A Performance of Entrapment』は、2023年3月31日に、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで上映されます。後日、オンラインでの特別上映も予定しており、追って詳細についてご紹介します。楽しみにお待ちください。