記念写真を撮るドレイク・ミュージックの二人とトークセッション参加者
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British Council Photo by Nariko Nakamura

障害、音楽、テクノロジー、多様性をもう一度捉え直す

2018年3月15日、16日にブリティッシュ・カウンシルと川崎市は、英国の芸術団体ドレイク・ミュージックを招き、日本で音楽と障害の分野で活動する研究者や芸術団体との交流の機会を設けました。互いの立場、活動を紹介しながら、障害、音楽、テクノロジー、そして多様性の本質を見つめ合うような場となった2日間。その濃密な時間をレポートします。

障害とは何か。まずそこから始める。

2日間に渡って行われたトークセッションとフォーラムの軸には、4つの言葉があった。障害、音楽、テクノロジー、そして多様性。どれも自分にとって身近な言葉であるし、社会のなかでも馴染みある言葉だ。その言葉の「意味」は多くの人がわかっている。けれど言葉の「解釈」はひとり一人違う。なぜなら解釈は、それぞれの実感のなかで育まれるものだから。言葉の解釈は千差万別。その前提をまず持ち、互いの解釈の違いを知ることから始めてみる。違いを楽しみ、共有しながら自分の解釈を問い直すことこそが、本当の理解に繋がっていくのではないか。そんなことを思いながら、私はこの2日間、スピーカーそれぞれの解釈を知ることを楽しみとした。

3月15日(木)に神奈川県川崎市・カルッツかわさきで行われたトークセッションのテーマは、「障害のある人の音楽表現を支えるテクノロジーの可能性」。楽器インターフェイス研究者の金箱淳一氏をファシリテーターとしながら、英国ドレイク・ミュージックの代表カリーン・メイア氏とダリル・ビートン氏、ガウェン・ヒュイット氏(英国からスカイプで参加)、楽器デザイナーの中西宣人氏、そして義手楽器を開発している畠山海人氏をスピーカーに迎え、それぞれの活動から浮き彫りになるテクノロジーの可能性を垣間見た。

トップバッターを切ったのは、ドレイク・ミュージックの3人。1993年に設立して今年で25年。障害のあるなしに関わらず、すべての人が音楽活動に参加できるようにすることを、一貫してテクノロジーを使うことによって実現させてきたドレイク・ミュージックにとっての「障害」とは何か。まずその解釈について、アソシエイト・ナショナル・マネジャーのダリル氏が話を始めた。

「ドレイク・ミュージックの活動を紹介するときは、まず障害に対する私たちの考え方について必ずお話しするようにしています。なぜならその考えを共有することで、初めて私たちの活動内容に理解を深めていただけると思うからです。早速ですが皆さん、“医療モデル”を知っていますか? 医療モデルとは、医学的な疾患に着目して障害を捉えることを指し、よって社会的困難に直面するのも、それを克服するのも個人の責任だという考え方です。その一方で“社会モデル”というものがあります。これは1970年代に英国で、障害のある当事者の社会運動から生まれ、発展してきた概念で、医療的な診断結果や症状に関わらず、その人自身が社会的困難に直面しているのであれば、それは社会の側が障害を生み出しているのであり、変わるべきは個人ではなく社会だ、という考え方です。」

つまり、ダリル氏の話をもとにイメージするなら、例えば障害のある人たちが学校や職場に通うときに不自由さを感じたとしたら、医学的な疾患をベースに個人の問題と捉えるのが“医療モデル”、不自由と感じる原因を作り出している社会の問題と捉えるのが“社会モデル”ということになる。ではドレイク・ミュージックにとっての障害とは? そう問われたら、社会モデルが基盤となることは明白だった。そしてこの社会モデルこそ、彼らの活動の中核を担っていた。

パソコンのスクリーンに映るスカイプ参加のドレイク・ミュージックのメンバー
英国のガウェン・ヒュイット氏(右)はロンドンからスカイプで参加し、ドレイク・ミュージックのテクノロジーに関する取り組みについて解説。 ©

British Council Photo by Nariko Nakamura

障害のあるミュージシャンが主導で開発する、新しい楽器

代表のカリーン氏は言う。「2012年に始めた活動で、ドレイク・ミュージック・ラボ(以下ラボ)というものがあります。このラボではハッカー、テクノロジスト、楽器デザイナーが一丸となって、障害のあるミュージシャンのクリエイティブなニーズとアクセス面でのニーズに同時に応える形での新しい楽器開発をしています。ここで重要なことは、障害のあるミュージシャンが主導する開発プロセスであること、そして障害のない人にとっても利益をもたらす活動だと考えられることです。」

このラボをメインで率いているのが、R&D(研究開発)プログラムを担当しているガウェン氏。10年以上、コミュニティ・ミュージシャンとしてさまざまな音楽テクノロジーに接してきた経験を活かしながら、ガウェン氏は仲間とともにアクセシブルな楽器開発を行っている。(ガウェン氏は英国からスカイプで参加。)

「例えば肢体障害がある指揮者のジェイムズ・ローズとは、腕ではなく頭の動きで細やかな表現も伝えることができる指揮棒を開発しました。ジェイムズが着用しているメガネに、3Dプリンタで製作した指揮棒を装着できるようにしたのです。実際、彼はその指揮棒を使い、ボーンマス・シンフォニー・オーケストラの指揮者として活躍しています。このように障壁をとりのぞけば、あらゆる人が自分の潜在能力を生かせるようになるのです。もちろん時間もコストもかかります。簡単なことではありませんが、ラボを通じてドレイクが障害の社会モデルを実現していることを感じてもらうことが大切だと思うのです。」

障害を医療モデルから、社会モデルに捉え直すことで、障害は個人の問題から私たちの問題になった。解釈ひとつで、世界の見かたは変わる。そしてどの解釈を前提に対話を始めるべきか、その前提を共有することがまず大切だと、改めてドレイクの3人から教わった気がした。

セッションレポート後編に続く

編集・文:水島七恵