レジデンスのスタジオとなるアートセンター3331 Arts Chiyoda ©

Tom Metcalfe

トム・メトカーフは、Playable City Tokyo 2018 レジデンスプログラムで東京を訪れました。

調和、平和、均衡 

日本に来たのは今回が初めて。長らく訪れたいとは思っていたが、これまで機会がなかった。しかし、そのチャンスが今より前ではなく、このタイミングでやってきたのが意外にも良い結果を生んだと思う。初めて何かを見たり聞いたりすることは強烈な体験を生むが、そのためには、新しいモノを見たり聞いたりしようとする姿勢を持つことが大事なのだ。今の自分は5年前と比べてもそういったことが少しうまくできるようになったと感じている。今回の渡日は本当にタイムリーだった。

デザイナーとして活動する私は、なんらかの新しいテクノロジーを用いて魅力的な体験を生み出すことに取り組んできた。そして駆け出しの頃から、日本のグラフィックデザイン、プロダクトデザイン ― なかでも原研哉や深澤直人といったデザイナーの作品や文章 ― に強く惹かれてきた。彼らのアプローチ、哲学、美学、デザインのシンプルさ、テクノロジーの用い方は、ディーター・ラムスやジョニー・アイブといった西洋プロダクトデザインのスーパースターよりも私に遥かに大きな影響を与えた。しかし、それがなぜなのかはこれまでのリサーチや実践を通しても突き止めることができず、今も答えを探している。

そして今年7月、ついに東京の地を踏むことができた。心が弾み、期待も膨らんだ。Playable City Tokyo 2018レジデンスプログラムに参加するアーティスト2名のうちの一人に選ばれた私は、10日間にわたって東京を探索し、あらゆる日本的なものにどっぷり浸かる体験をすることになっていた。滞在を終える頃にはレジデンスの方向性が見えてくるかもしれない(あるいは見えてこないかもしれない)。どちらにせよ9月に体験のプロトタイプを持って再度東京を訪れ、アイデアを試すことになっていることが決まっていた。

今回の滞在では、もう一人のレジデンス参加アーティスト、ソフィー・サンプソンとウォーターシェッドのプロデューサーのヒラリー・オショネシーと行動を共にした。すばらしいホスト役を務めてくれた日本のブリティッシュ・カウンシルのスタッフの方々 — ななみさん、まなみさん、ありがとう — が東京を案内してくれ、私たちは東京のカルチャー、サブカルチャーに触れ、そのいくつかの区を訪れ、そこのビジネス、助成機関、建築、インスティテューション、食べ物、レストラン、面白い人、店などに出会うことができた。まったく新しい体験に刺激を受け、いろいろと考えさせられたと同時にこのような機会に恵まれたことを光栄に思った。このブログに書けることはたくさんあるが、ここでは私が概念的、戦略的、美的な観点においてもっとも面白いと感じた3つの領域に焦点を絞りたい。それは「2020年の東京オリンピック」、「 伝統とテクノロジー」、「調和」である。

(註)このプロジェクトは現在進行中のもので、以下の内容は上述の領域を探求するための出発点になるものである。

2020年の東京オリンピック

そもそも今回のレジデンスプログラムが実現した理由にオリンピックの存在があると思う。東京都から中小企業までが、オリンピックを東京ないし日本にとって非常に重要な行事として考えている。それに向けた戦略は「towards 2020」や「beyond 2020」などと銘打たれている。

企業に話を聞いた際、興味深いことにその多くが行政と足並みを揃え戦略を打ち立てていた。2020年には東京に世界中の注目が集まる。「2020年の日本」を世界に示すために東京では着々と準備が進んでいるようだった。とても楽しみだ!

伝統とテクノロジー

日本はその卓越した実装技術、設計開発によって実現される革新的な最先端技術で知られている。それは、ここ数十年でソニー、キャノン、カシオ、ニコン、任天堂、ホンダ、トヨタ、シャープ、東芝、ヤマハなどが世に送り出してきた優れたプロダクトを想像してみればいい。

日本の伝統についても、茶の湯、生け花、木版画、ものづくりなどがすぐに頭に浮かぶ。「わびさび」、「和」、「幽玄」といった哲学や理念もそうだ。

私は東京で出会ったアーティスト、デザイナー一人ひとりに、伝統とテクノロジーがどんな風に関係していると感じるか、また自らの実践においてその関係性にどうアプローチしているかを訊ねた。すると全員から同じような答えが返ってきた。それは「私たちは千年にわたる伝統の遺伝子を受け継いでいる。それを自分の仕事のなかで引き出そうとしているのだ」。というものだった。それ以上の説明は与えられなかった。この伝統が作品のなかにどう流れているかをアーティストやデザイナーたちが明確に認識しているかははっきりしない。それはひょっとすると暗黙知、直感、あるいは教育や育った環境によって育まれた認識なのかもしれない。

一方、二つの関係性が「伝統からテクノロジーへ」という移行によるものではないことは確かだった。それらは別個に存在するものではないのだ。どちらかというと伝統が、アーティストやデザイナーたちの作品、彼らがテクノロジーを活用する上でのアプローチのなかに流れているという感じだ。これは私たちが出会ったデザイナー、アーティストに限らず、日本人全般が共有しているもののように映った。

調和

「和」については上記でも触れた。これは英語の「harmony(調和)、「peace」(平和)、「balance」(均衡)などに訳すことができる。「和」はひとつの生き方であり、ひとつのデザインのあり方でもある。「大和」という言葉は日本の国や日本に由来するものの古い呼び名として使われ、また多くの熟語にも用いられている。「和紙」は伝統的な日本の紙、「和歌」は日本固有の詩、「和牛」はあのブランド肉を指す。このように「和」はあらゆる日本語の言葉に登場する。この現象に興味を持った私は、デザイン、イノベーション、テクノロジーを用いた新しい作品に「和」の概念がどう影響しているかを解明できるのではないかと思い、リサーチをはじめた。

私は自らの実践を環境への思いやり、他人への思いやり、コラボレーターに対する思いやりなど、何かを尊ぶ精神(respect)の枠組みのなかで考えてきた。しかし、私が言いたいことをより的確に表しているのはむしろ「和」の概念である。私が一番関心を持っているのは人、自然、モノ、公共空間の間の「調和」なのだ。人間は自然よりも優位な存在ではなく、またすべての存在に魂が宿っているということ。こうした「和」の考え方、そして日本におけるその役割は現代の西洋のアプローチとは根本的に異なるもののように思えた。探究は続く…!

次のステップ

こうした考えが最終的にどうまとまっていくかについてはいくつかアイデアがあるが、ここで共有するにはまだ早すぎる。ただ、今回の来日をきっかけに神道についてより詳しくみていきたいと考えたし、テクノロジー、自然、人といった要素をどう結集させるか、自分なりの探求の成果を9月に東京で共有したいと思う。

興味をひかれた日本の光景

分かりやすいガイドライン ©

Tom Metcalfe

順番を待つ列 ©

Tom Metcalfe

木々が並ぶ東京の通り ©

Tom Metcalfe

公共の空間にある椅子、植栽、デジタル広告 ©

Tom Metcalfe

秋葉原の真中にある駐車場になにかつくることはできるだろうか。 ©

Tom Metcalfe

Playable City Tokyo 2018 レジデンスプログラムでは、ブリティッシュ・カウンシルとウォーターシェッドによって公募で選ばれた二人の英国人クリエイター、ブリストルに拠点を置くデザイナーのトム・メトカーフとロンドンに拠点を置くクリエイタ-のソフィー・サンプソンが、2018年の6月と9月の2度にわたり東京でレジデンシーを行う。本レジデンスプログラムは、アート、テクノロジー、社会の交差点で東京の公共空間にイノベーションをもたらすような遊び心溢れるアイデアを共同リサーチ、発展させ、遊びを通して新たな都市をめぐる議論を生み出すことを目的としている。

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